会社設立

アメリカ進出 ~会社設立方法~

アメリカで法人を設立する際、最も一般的な法人形態であるC Corporation。

今回はC Corporationの設立方法や設立後事業を開始するまでに必要な手続きについて解説いたします。

C Corporationは日本の株式会社に類似しており、多くの日本企業が米国進出の際に用いる法人形態になります。

C Corporationのアメリカでの設立プロセスは、各州法により定められており、厳密には州ごとに必要手続きがことなりますが、基本的に全米で共通しております。

今回は、ニューヨーク州を例にC Corporationの設立方法及び必要手続きを解説いたします。

♢設立プロセス

ニューヨーク州でC Corporationを設立するには以下の5つのstepが必要になります。

■Step 1 会社名の決定

まずはじめに、設立する法人の名称を決めます。

C Corporationの場合は、”Corporation”や”Incorporated”、もしくはその省略形である

”Corp.” 、”Inc.”のいずれかを社名の最後につける必要があります。

同じ会社名は州に一つしか認められず、同じ州内で既に使用されている名称を登録することはできません。そのため、ニューヨーク州のサイトにて、希望する会社名が既に使用されていないことを予め確認しておく必要があります。

なお、正式な会社名とは異なる名称でビジネスを行うことも可能です。これは、Doing business as(DBA)と呼ばれます。DBAを利用したい場合、ニューヨーク州当局に対して、Certificate of Assumed Nameと呼ばれる書面を申請費用とともに提出する必要があります。この申請費用はビジネスを行う地域によって異なっており、例えばニューヨーク州内全域にてDBAでビジネスを行う際の申請費用は$1,950となります。

■Step 2 Registered Agent (登録代理人) の選定

次に、Registered Agent (登録代理人)を決める必要があります。登録代理人は、州政府から届く様々な通知(会社の更新登記や税関係の書類等)を受け取り、会社に知らせる役割を担います。州内に実際の住所を所有している居住者や法人であれば、登録代理人になることが認められていますので、自社を代理人とすることも可能です。

ニューヨーク州では、特に自分で選択しない場合はSecretary of State (州事務官)が登録代理人 となりますが、民間のRegistered Agent Serviceを指定することもできます。

■Step 3 会社の登記

C Corporationの法人登記手続きは、州当局にCertificate of Incorporation(基本定款)を提出することで完了します。基本定款には、州で定められた会社の基本情報が記載されます。これは日本の「登記簿」に類似したもので、法人の実在を示す公的証明となります。この基本定款は郵送やFAXで申請することもできますが、ニューヨーク州ではオンライン上で申請を行うこともできます。登録にかかる費用は$125で、クレジットカードやデビットカードでの支払いも可能です。

 

※Certificate of Incorporation(基本定款)には、以下の事項が記入されます。

① 会社名

② 事業の目的

③ 会社の事務所所在地(群名)

④ 発行可能株式数

⑤ 登録代理人

⑥ 代表者の名前・住所

⑦ 定款の申告者の名前・住所

州により提供されている参考formを利用することで作成することができます。

なお、基本定款の内容を変更する場合、取締役会と株主総会両方での決議が必要となり、変更内容を記載した Certificate of Amendmentを州当局に提出することが義務付けられています。

■Step 4 Bylaws (付属定款) の作成及び第一回取締役会の開催

会社の法人登記手続き完了後、Bylaws (付属定款)と呼ばれる文書を作成します。付属定款とは、社内業務を統括するための一連の規制で、日本の「定款」に該当します。付属定款には、取締役会や執行役員についての情報も記載します。また、この付属定款を州に提出する必要はないため、会社で保管します。

その後、会社設立に関する最初の取締役会を開催します。主な議決内容は、付属定款の報告と承認や会計年度の選択、そして株式の発行などです。この際、取締役会での決議内容を記録しておく必要があります。

 

■Step5 EIN(Employer Identification Number)の取得

事業を始める前に、内国歳入庁(Internal Revenue Service: IRS)が企業の識別に用いる番号である連邦雇用主番号(EIN)を取得します。EINは会社の銀行口座開設や、連邦税・州税等の支払いなどに際して必要となります。EINの取得申請は、IRSに対し、オンライン、電話、Faxまたは郵便(form SS-4に必要事項を記入して提出)で行います。詳細はこちらをご参照ください。

♢事業の開始に伴うその他必要手続き

法人設立完了後、事業を開始する前に必要な準備や手続きがあります。必要な手続きは主に以下の6点になります。

① 銀行口座の開設

C Corporationを設立する際、IRSの要請により、法人用の銀行口座を開設しなければいけません。銀行口座を開設するには、EIN(連邦雇用主番号)やCertificate of Incorporation(基本定款)などが必要になります。

② 雇用者登録 & Sales Taxの登録

ニューヨーク州では、雇用主は一人でも従業員を雇用する場合、New York Department of LaborにおいてUnemployment Insurance (雇用保険)とEmployee Withholding Tax (源泉徴収税)を登録する必要があります。

また、Sales Taxの対象となる商品やサービスを販売する場合、New York Department of Taxation and Financeにおいて、Certificate of Authorityを取得する必要があります。

③ 会計システムの導入

会計帳簿の作成は事業を行う上で必須の作業です。会社を設立するにあたり、実際の事業の開始前でも、連邦や州への各種登録費用やPC等の機材の初期投資など、様々な経費が発生します。従い、会計帳簿の作成は法人設立に伴う必須の作業となります。会計帳簿の作成はエクセル等で行うことも可能ですが、会計システムを導入することでより簡単に行うことができます。具体的には、銀行口座やクレジットカード情報の一元管理、領収書の電子保管、そして確定申告時の作業の簡便化などにより、手間のかかる事務作業の量を減らすことができます。

なお、アメリカの中小企業の8割以上がQuickBooksという会計システムのソフトウェアを利用しております。初心者にも使いやすいものとなっておりますが、初期設定を誤ると後からの修正に多大な時間を要する可能性があります。そのため、導入する際にはQuickBooksに精通した専門家に相談することをお勧めします。

④ ビジネスライセンスの取得

アメリカで特定のビジネスを行う際、ビジネスライセンスや事業許可が必要な場合があります。ライセンスが必要となるビジネスは、連邦レベル、州レベル、自治体レベルでそれぞれ規程されています。連邦レベルでビジネスライセンスを必要とされる業種には、例えば以下のような業種があります。

  •  農業
  • アルコール販売業
  •  物流輸送業
  •  ラジオ、テレビ放送業
  •  漁業

ライセンスが必要な業種は州ごとに異なります。従い、複数の州で事業を行う場合はそれぞれの州でのライセンスの要否を確認する必要があります。

  • 連邦政府のビジネスライセンスについてはこちら
  • ニューヨーク州のビジネスライセンスについてはこちら
  • 自治体のライセンスについては、商工会議所へお問い合わせください。

ライセンスの取得料は、取得するライセンスの内容により異なるため、それぞれ確認が必要となります。なお、アメリカには、ライセンスの要否の確認及び申請を代行してくれる専門の業者もいるため、代行業者に依頼することもできます。

⑤ 保険の加入

C Corporationは各州法の定める最低限の種類・内容の保険に加入する義務を負います。例えば、従業員を雇用した場合、Worker’s Compensation(労災保険)、Disability Insurance(障害保険)、およびUnemployment Insurance(失業保険)への加入義務があります。 General Liability (一般的賠償責任保険)は任意加入ですが、訴訟に巻き込まれる可能性がある場合や、店舗を運営するような場合は、保険に加入しておくことが推奨されています。

⑥ 法令の遵守

従業員を雇うにあたり、雇用者は以下のような法令を遵守する必要があります。法令の遵守は日本に限らずアメリカでも当然重要になりますので、ご確認ください。

 

以下が、雇用者が米国内で守るべき主な項目です。

  • アメリカ国内で労働する資格があることを確認する
  • 従業員を新しく雇用したことを州(Department of Taxation and Finance)に報告する
  •  Worker’s compensation (労災保険)を契約する
  •  給与の支払い時に源泉徴収を行う
  •  法令遵守に関するポスターを仕事場の見える位置に貼る
  •  週給、隔週給など州に定められた頻度で、少なくとも最低賃金の支払いを行う
  •  従業員を雇用する場合、給与税や社会保障の手続きを行なう

今回はニューヨーク州でC Corporationを設立する場合に焦点を当てて説明いたしましたが、どの州においてもC Corporation設立の基本的な流れは共通しています。ただし、各種申請先やそれに伴う費用などが各州で異なっていますので、詳細は設立する州に合わせて調べる必要があります。

弊社では、法人の設立支援や会計システム(QuickBooks)の導入支援、EINの取得の代行等のサービスを提供しております。オフィスはニューヨークにございますが、全米どの州でも対応しております。お困りのことがございましたら、是非お問合せ下さい。

 

監修者

小林 賢介

早稲田大学政治経済学部を卒業後、
有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。
2015年8月よりDeloitte NYに駐在。
その後、ニューヨークにて
UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。