Individual Tax

PFIC(Passive Foreign Investment Company)税制とは?
米国居住者が日本の投資信託を保有することのリスクを徹底解説

米国に居住し、米国で確定申告を行う立場になると、日本で保有している投資信託が PFIC(Passive Foreign Investment Company)税制の対象となる可能性があります。
本記事では、PFIC税制の基本から、該当しやすい金融商品、実務上のリスク、そして現実的な対応方針までをわかりやすく解説します。

1. PFIC税制とは?

PFIC税制とは、米国納税者がPFICに該当する投資(外国法人扱いとなる投資信託等)を保有する場合に、一定の条件下で 報告義務(Form 8621など)と、PFIC特有の課税が発生する制度です。

2. 制度導入の背景:なぜPFIC税制があるのか?

  • 課税を長期間先送りする(課税の繰延べ)
  • 本来より低い税率で課税を受ける

といった行為を防ぐことにあります。

2-1. 課税の繰延べを防ぐ

米国の一般的な投資信託では、配当や売却益が発生すればその都度課税されます。
しかし、海外ファンドの中には、利益を分配せず内部に留保し続ける設計のものがあります。この場合、投資家は現金を受け取らないため課税が表面化しにくく、結果として課税の先送りが可能になります。PFIC制度は、このような課税繰延べを防ぐための仕組みです。

2-2. 低税率への変換を防ぐ

米国では、

  • 利息や短期利益は通常所得として高税率
  • 長期キャピタルゲインは優遇税率

という差があります。

本来通常課税されるべき収益を、投資信託を通すことで見かけ上「長期売却益」に変換できる構造があると、税率の公平性が損なわれます。PFIC制度は、こうした税率差の利用も抑制する目的で設けられています。

 3. そもそもPFICとはなにか?


PFIC(Passive Foreign Investment Company)は、日本語では一般的に「受動的外国投資会社」と呼ばれます。

PFICに該当するかどうかの厳密な判定基準は後述しますが、わかりやすい例としては、日本の証券会社で取り扱われている投資信託が挙げられます。NISAやiDeCoを通じて保有している投資信託も、商品によってはPFICに該当する可能性があります。

例えば、日本の投資信託(eMAXIS Slim 全世界株式/米国株式など)はPFICに該当するケースが多い一方で、米国上場のETF(例:VT、VOO、IVV、SPYなど)は「外国投資会社」に該当しないため、一般的にはPFICには該当しません。

4. PFICの基準(Income Test / Asset Test

PFICに該当するかどうかは、対象となる「外国法人」が以下のいずれかを満たすかによって判定されます

4-1. 所得テスト(Income Test

その年の総所得(gross income)のうち、75%以上がパッシブ所得(passive income)である。

パッシブ所得の典型例

  • 配当(dividends)
  • 利息(interest)
  • キャピタルゲイン(株・債券等の売却益)
  • レンタル収入(条件による)
  • ロイヤルティ(条件による)

株式・債券などの運用益中心の器は、このテストでPFICになりやすい傾向があります。

4-2. 資産テスト(Asset Test)

その年の平均資産(average assets)のうち、50%以上がパッシブ所得を生む資産(passive assets)である。

パッシブ資産の典型例

  • 株式
  • 債券
  • 投資信託・ファンド持分
  • 現金・預金(投資目的の余剰資金扱いになり得ます)

投資運用が中心のファンド等は、こちらのテストでも該当しやすいです。

5. なぜ昨今こんなに注目され始めたのか?

PFIC制度が導入された当時、対象となる投資商品を保有するのは、主にオフショアファンド等を活用する富裕層や高度な投資家に限られていました。
しかし近年では、いわゆる「オルカン」や米国株連動型の投資信託が広く普及し、当初想定していなかった層の人々までPFIC税制の対象となり得る商品を保有するケースが増えています。
特に日本では、NISAやiDeCoの普及によって投資人口が増えたこともあり、結果としてPFIC税制が身近な問題になってきたと言えます。

6. PFICの報告義務


PFICを保有していると、米国確定申告で Form 8621 の提出が必要になります。Form 8621は 銘柄ごとに提出が必要となり、フォーム自体も非常に複雑といわれています。そのため、保有銘柄数が多いほど申告コストが大きくなる可能性が非常に高くなります

6-1. 報告義務の免除(いわゆる少額免除)


PFICに該当する投資信託等を保有している場合、米国確定申告では原則としてForm 8621の提出が論点になります。
ただし、一定の条件を満たす場合には提出が免除される可能性があります。一般に「少額免除」と呼ばれ、年末時点におけるPFIC該当商品の時価総額を合算し、

  • Single(またはMFS):$25,000以下
  • Married Filing Jointly(MFJ):$50,000以下

であれば、他の要件を満たす限り提出不要となります。
ただし、分配金の受領や売却が発生した年は免除が適用できないため、金額だけで形式的に判断しないことが重要です。

6-2. 事例紹介:判定は“銘柄ごと”ではなく合算

PFIC該当商品の時価総額を合計して判定します。

判定例

  • A投信:$10,000
  • B投信:$12,000
  • C投信:$8,000
    合計 $30,000

→ Singleの場合は閾値($25,000)以上のため申告義務があり、Married Filing Jointlyの場合閾値($50,000)未満であるため申告義務は免除されます。

6-3. 実務上の負担:Form作成コストという現実

PFICの問題は、税率が不利になる可能性だけではありません。
実務上の大きな負担として、「Form 8621の作成コスト」があります。

Form 8621は銘柄ごとに作成が必要であり、計算も複雑です。そのため、税理士・会計士に依頼する場合、1銘柄あたり概ね200ドル〜300ドル程度の追加費用が発生するケースが一般的です。

たとえば、

  • 5銘柄保有 → 年間 $1,000〜$1,500
  • 10銘柄保有 → 年間 $2,000〜$3,000

といった水準になる可能性があります。

仮に各銘柄の投資額が数千ドル規模であれば、
税負担以前に、申告コストが投資リターンを大きく圧迫するリスクがあります。

多額の投資を行っている場合はまだしも、少額分散投資をしている場合には、管理コストとリターンのバランスが見合わなくなる可能性がある点は見落とされがちな重要論点です。

7. 分配金に対する懲罰的な課税制度(Excess Distribution

PFICが問題になる理由の中でも、特に注意が必要なのが、分配金(配当金)や売却益に対して のExcess Distribution(超過分配)のルールです。

7-1. Excess Distributionとは何か?

Excess Distributionとは、PFICに該当する投資商品から受け取る分配金(配当金)が、過去の分配実績と比較して一定の基準を超えた場合に、通常の課税ではなく特別な(不利な)課税計算が適用されるルールです。

7-2. Excess Distributionはどう判定され課税されるのか?


Excess Distributionの判定は簡略化すると、次の考え方です。

当年度の分配金が、過去数年の平均分配額の125%を超えると、超えた部分がExcessとみなされます。
(※厳密な計算は論点がありますが、ここでは仕組み理解のため簡略化しています。)

例:Excess Distribution(仕組みのイメージ)

  • 2023年:$100
  • 2024年:$100
  • 2025年:$100

平均$100 → 125%は$125
2026年に $400 の分配金が出た場合、

  • $125までは通常の分配
  • 超過した $275(=$400−$125)がExcess扱い

このExcess部分は保有期間にわたって各年に按分され、過去年分に割り当てられた金額についてその年の所得水準にかかわらず連邦の所得税法上の最高税率相当で税額が計算され、さらに利息が加算されます。

8. 売却益に対する懲罰的な課税制度


「分配金が出ない投資信託なら、Excess Distributionの問題は起きないのでは?」と思う方もいるかもしれません。
確かに分配がなければ、Excess Distributionの論点は表に出にくくなります。しかしPFICで注意すべきなのは分配だけではありません。PFICでは、売却益もExcess Distributionと同様の考え方で不利な課税計算が適用され得ます。

PFICを売却して利益が出た場合、その売却益は保有期間にわたって過去の各年に按分され、過去年分に割り当てられた部分が最高税率相当で課税され、利息が加算される仕組みが適用されます。

この仕組みの厄介な点は、長期保有するほど遡る年数が増えることです。

  • 2年保有して売却 → 影響が限定的になりやすい
  • 10年保有して売却 → 遡り計算が長くなり、負担が大きくなりやすい

遡る年数が長くなるほど利息負担が増えやすく、結果として納税者にとって大きな負担となる可能性があります。

9. Excess Distributionを回避するための制度(QEF / Mark-to-Market


PFICに該当する投資信託やファンドを保有している場合、分配金や売却益に対してExcess Distributionのルールが適用され、通常より不利な課税(遡り課税+利息)が生じ得ます。

こうした不利な課税を回避・緩和する手段として、PFIC税制には主に

  • QEF election
  • Mark-to-Market election

という2つの制度(選択課税)が用意されています。
ただし、どちらも万能ではなく、実務上は 未実現利益(まだ売却していない含み益)に対しても課税が発生し得るため、利用を希望する方は限定されるのが現実です。

9-1. QEF electionとは?

QEF(Qualified Electing Fund)electionは、PFICに該当する投資商品について、ファンド内部で発生した利益を分配の有無にかかわらず毎年課税することで、Excess Distributionのような不利な課税を避ける制度です。

メリットとしては、PFICのデフォルト課税(Section 1291)で問題になりやすい

  • 遡り課税
  • interest charge(利息加算)

を回避しやすい点があります。

一方で、QEF electionを行うためには投資先から PFIC Annual Information Statement の提供が必要になります。日本の一般的な投資信託ではこの情報が提供されないケースが多く、実務上のハードルが高い点が大きな課題です。

また、分配がなくても毎年課税される可能性があるため、現金が手元に入っていないのに税金だけ発生する状況になり得ます。

9-2. Mark-to-Market electionとは?

Mark-to-Market election(時価評価課税)は、年末時点の時価を基準に、PFICの含み益が増えた分を毎年課税する制度です。

  • 年末時点で価格が上がっていれば → 上がった分を利益として課税
  • まだ売っていなくても → 「利益が出た」とみなして課税

メリットとしては、QEFと比べると投資先からの詳細情報が不要であり、状況によっては実務上のハードルが低い点が挙げられます。

一方で、分配や売却がなくても納税が発生し得るためキャッシュフロー負担が出やすい点、また課税上は通常所得(ordinary income)として扱われるケースが多く、長期キャピタルゲインの優遇が得られにくい点には注意が必要です。

10. 現実的な優先順位:まずは「増やさない」→「棚卸し」→「方針決定」


PFIC対応は、いきなりQEFやMark-to-Marketを検討するよりも、まずは次の順番で整理することが現実的です。

おすすめの順番

1. PFICになり得る投信を増やさない(渡米後の買い増しを避ける)
2. 保有状況を棚卸しする(銘柄、評価額、分配の有無、含み益)
3. 保有継続か整理か、方針を決める
4. 必要に応じてQEF / Mark-to-Marketを検討する

滞在予定、将来の売却可能性、含み益の大きさ、分配方針などによって最適解は変わるため、個別に整理することが重要です。

11. まとめ:PFICは「知らずに買う・売る」が一番危険

PFICは、米国税務上、海外の投資信託やファンド等に対して適用される特別な税制ルールであり、日本の投資信託も該当する可能性がある点に注意が必要です。
PFICに該当すると、Form 8621の提出を含む申告負担が増えるだけでなく、分配金や売却益に対して通常より不利な課税が適用されることがあります。
特に、分配金が急に大きくなるケースや、長期保有した投資信託を米国居住者として売却するケースでは、税負担が想定以上に大きくなる可能性があります。

渡米後に日本の投資信託を新規購入・追加購入することはリスクを高めやすいため、まずは保有状況を整理し、PFICを増やさない方針を検討することが現実的な第一歩となります。

Univis Americaでは、米国税務の観点から日本の金融資産の棚卸しを行い、PFICに該当する可能性のある資産の整理や、売却・保有方針の検討、米国確定申告における対応までサポートしています。PFICに関して不安がある方は、早めに専門家へご相談いただくことをおすすめします。

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監修者

小林 賢介

早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。