Franchise Taxとは?―米国でビジネスを行う企業が知っておくべき州独自の税制度

はじめに:なぜFranchise Taxを理解する必要があるのか
アメリカにおいて法人を設立・運営する際、連邦法人税(Federal Corporate Tax)や州法人税(State Corporate Tax)だけでなく、各州が独自に課す「Franchise Tax(フランチャイズ税)」の理解と対応が不可欠です。
このFranchise Taxは、企業が州内で事業活動を行う“権利”に対して課される税であり、州ごとにその定義や課税方法が大きく異なります。
たとえば、ある州では資本金に基づいて計算される一方、別の州では売上高や利益を基準とした課税が行われます。
また、実際にビジネスを行っていない場合でも、登記しているだけでFranchise Taxの納税義務が生じることもあり、「赤字だから税金は発生しない」と考えていると予期せぬ追徴課税やペナルティを受ける可能性もあります。
特に日系企業が米国に進出する際には、本業の立ち上げや運営に集中するあまり、こうした州独自の税制への対応が後回しになりがちです。
しかし、Franchise Taxの対応を怠ると、法人ステータスの失効(Good Standingの喪失)や、銀行取引、ライセンス更新などに支障が出るリスクもあるため、初期段階から正しく理解しておくことが重要です。
本コラムでは、Franchise Taxの基本から、州ごとの代表的な制度、申告実務、そして日系企業が特に注意すべきポイントまで、わかりやすく整理して解説していきます。
1.Franchise Taxの基本概要
Franchise Tax(フランチャイズ税)とは、法人が特定の州で事業活動を行う権利に対して課される税金であり、必ずしも「フランチャイズ・ビジネス」に関連するものではありません。
名称に誤解を招く部分がありますが、この税は州に法人として登録されていること、あるいは州内で一定の経済的活動(nexus)を有していることを根拠に課税される州税の一種です。
多くの州ではこのFranchise Taxを、州の法人税(Corporate Income Tax)とは別に独自の制度として設けており、課税対象となる基準や税額の計算方法も州ごとに大きく異なります。
たとえば、ある州では資本金を基準としてFranchise Taxを算出し、別の州では売上高や利益を基準としています。
さらには、法人が赤字であっても、最低税額(minimum tax)が課される州も少なくありません。
また、法人の形態によっても課税の有無や申告義務が異なる点にも注意が必要です。
C CorporationやS Corporationだけでなく、LLCやLPなどのパススルー事業体についても、州によってはFranchise Taxの対象となる場合があります。
Franchise Taxの納税義務を怠った場合、延滞ペナルティや利息の課税に加え、「Good Standing」と呼ばれる法人の有効状態を失うリスクがあり、これにより各種契約や銀行取引、ライセンス更新などに支障が生じる可能性もあります。
以下に、Franchise Taxの主な特徴を記載いたします。
項目 | 説明 |
対象 | 州で法人登記している法人・事業体(LLCなども含む場合あり) |
課税根拠 | 州内での登記、事業活動、経済的関与(nexus) |
計算基準 | 州により異なる(資本ベース、売上ベース、定額など) |
赤字でも課税 | 多くの州でMinimum Taxがあるため課税される可能性あり |
未申告のリスク | ペナルティ、利息、Good Standingの喪失 |
また、法人税(Corporate Tax)との違いは以下の通りです。
項目 | 法人税(Corporate Income Tax) | Franchise Tax |
課税対象 | 利益(課税所得) | 事業活動の「権利」 |
税額の算出方法 | 所得に対する一定税率 | 州ごとに異なる(資本・売上・定額など) |
赤字時 | 税金なし | 最低課税あり(多くの州) |
管轄 | 連邦・州 | 主に州 |
例 | IRSのForm 1120 | 州ごとの専用フォーム(例:California Form 100) |
2.課税方法の主なタイプ
Franchise Tax(フランチャイズ税)は州ごとに制度設計が大きく異なり、課税方法も一律ではありません。
主に次の4つの課税方式が存在し、多くの州ではこれらのうち複数の計算方法を併用し、その中で最も高い税額が適用される仕組みを採用しています。
(1)資本基準型(Capital-Based)
法人の資本金や株主資本(Net Worth)を基準としてFranchise Taxを計算する方式です。
登記時に発行した株式数やPar Value(株式1株あたりの名目上の額面金額)などに応じて税額が増えるため、資本の大きな企業は注意が必要です。
- 赤字であっても資本額により課税される。
- 株式数・資本構成に応じて税額が変動。
- 計算には一定の専門知識が必要な場合も。
(2)売上基準型(Revenue-Based)
法人の総売上高や州内売上高を基準に税額を算出する方式です。
利益の有無にかかわらず、売上規模に応じた課税が行われるのが特徴です。
- 赤字でも高売上企業には課税が生じる。
- 州内での経済的関与(Nexus)がある場合、州外法人も対象。
- 売上の配分(Apportionment)による調整が必要。
(3)所得基準型(Income-Based)
法人の課税所得(Taxable Income)を基準にFranchise Taxを算出する方式です。
一般的な法人所得税と近い構造で、利益がある法人が主な対象となります。
- 利益に連動するため、公平感がある。
- 法人所得税と合わせて課税されるケースもあり、実質的な二重課税となる場合がある。
(4)定額課税型(Flat-Fee or Minimum Tax)
法人の規模や収益状況に関係なく、毎年一定額が課される形式のFranchise Taxです。
特に小規模法人や設立直後の企業でも例外なく対象となるケースがあります。
- 一定金額が固定で課税される(例:$800など)。
- 登記しているだけでも課税対象となる場合あり。
- ビジネス活動がなくても納税義務が生じうる。
(5)各課税方式の比較表
課税方式 | 基準 | 特徴 |
資本基準型 | 資本金、株式発行数など | 株式数・資本額が多いと税額が増加 |
売上基準型 | 総売上または州内売上 | 売上が大きい赤字企業も課税対象 |
所得基準型 | 利益(課税所得) | 利益ベースだが法人税との二重課税も |
定額課税型 | 固定金額 | 毎年$800など。小規模企業も対象 |
※多くの州では上記方式のうち複数を併用し、「最も高い税額で課税する」仕組みを採っています。
3.州ごとのFranchise Taxの具体例
Franchise Taxの制度は州ごとに大きく異なり、同じ法人であっても事業を展開する州によって税額や計算方法に大きな差が生じます。
この章では、米国進出日系企業にとって関心の高い代表的な4州―Delaware、California、Texas、New York―のFranchise Tax制度について解説します。
(1)Delaware(デラウェア州):資本基準中心
Delawareは多くの企業が法人登記を行う州として有名ですが、Franchise Taxの課税も非常に特徴的です。
法人は以下の2つの方法のいずれかで税額を計算し、どちらか低い方を選択できます。
- Authorized Shares Method:発行可能株式数に基づき課税。株数が多いと税額が増加。
- Assumed Par Value Capital Method:総資産と発行済株式数に基づき課税。
税額レンジ:$175~$250,000/年(2024年現在)
申告期限:3月1日
対象法人:Delawareに登記されたすべての株式会社(Corporation)。LLCはFranchise Taxの対象外だが、Annual Tax(年次税)$300の支払義務あり。
株式構成により大きく税額が変動するため、慎重な資本政策が求められます。
(2)California(カリフォルニア州):定額+所得基準
CaliforniaのFranchise Taxは、赤字・未稼働であっても最低税額が課されることが特徴です。
- Minimum Franchise Tax:法人は年間最低$800のFranchise Taxが必要(設立初年度は免除の場合あり)。
- 所得ベース課税:C Corporationの場合、所得に対して8.84%の法人税がFranchise Taxとして課税されます。
申告期限:4月15日(通常の法人税と同様)
対象法人:C Corp,S Corp,LLC(形式により課税形態が異なる)
(3)Texas(テキサス州):売上基準(Margin Tax)
Texasでは「Franchise Tax」はMargin Taxと呼ばれ、法人の総売上高に基づく課税が行われます。
- 課税対象売上(Margin):総売上高から一定の控除(原価・給与等)を引いた金額。
- 税率:
o一般法人:0.75%
o小売・卸売業:0.375%
o年間総収入が20ミリオンドル未満の法人:0.331%
o年間総収入が2,470,000ドル未満の法人は免税
申告期限:5月15日
対象法人:Texasに登記された法人だけでなく、nexusがある州外法人(外国法人)も含む。C Corporation、S Corporation、LLC、LP、Professional Corporationなど、ほとんどすべての法人形態が対象。
規模が大きくなると急に税負担が上がるため、成長企業にとってはシミュレーションが重要です。
(4)New York(ニューヨーク州):複数基準の併用
New Yorkは複数の課税ベースを併用する代表例で、法人は以下の3方式で計算された税額のうち最も高い金額を納付する必要があります。
- Business Income Base(所得ベース):州に配分された課税所得×税率(通常6.5%)
- Capital Base(資本ベース):株主資本に0.1875%
- Fixed Dollar Minimum Tax(定額課税):収益規模に応じて$25~$200,000の間で課税。
申告期限:4月15日
対象法人:一般法人(C Corporation)。S CorpやLLCは別制度。
加えて、New York Cityにも独自のFranchise Tax(Business Corporation Tax)が存在し、同様の方式で課税されます。
二重の申告義務が発生するため、注意が必要です。
以下に州別比較表を記載いたしますので、ご参照ください。
州 | 主な課税基準 | 最低税額 | 特記事項 |
Delaware | 資本(株式数または資産) | $175 | 税額の上限は$250,000 |
California | 所得+定額 | $800 | 初年度免除あり(条件あり) |
Texas | 売上(Margin) | $0 | 小規模法人は免除(売上基準あり) |
New York | 所得・資本・定額から最大値 | $25~200k | NYCにも別途課税あり。複数方式の併用 |
4.申告・納税の実務ポイント
Franchise Taxは法人税と同様に毎年の申告・納税義務があり、対応を怠るとペナルティや法人の失効といった深刻なリスクが生じます。
このセクションでは、Franchise Taxに関する申告・納税の流れと、実務上の留意点を解説します。
(1)申告期限と延長申請
Franchise Taxの申告期限は州によって異なりますが、多くの州では法人所得税の申告期限と同じか、近接した日程に設定されています。
州 | 申告期限 | 延長申請 |
Delaware | 3月1日 | 可能(別途申請要) |
California | 4月15日(暦年法人) | 6カ月の自動延長あり |
Texas | 5月15日 | 可能(Form 05-164) |
New York | 4月15日(暦年法人) | 6カ月の延長申請可(Form CT-5) |
しかし、延長はあくまで「申告書の提出期限」の延長であり、「納税期限の延長」ではありません。
見積納税が必要となるケースがほとんどです。
(2)計算に必要な情報と手続き
Franchise Taxの計算にあたっては、法人の株主資本、発行株式数、売上、課税所得などの情報が必要となります。
課税方式に応じて、以下のような準備が求められます。
- 資本基準型:
o株主資本の金額
o株式のPar Valueおよび発行済株式数 - 売上基準型:
o州内および全米売上高
oApportionment(州ごとの売上配分)の計算 - 所得基準型:
o州に配分される課税所得
o各州の控除・加算調整
正確な課税額の計算と記載ミス防止のため、会計帳簿と法人税申告書(Form 1120など)との整合性も確認する必要があります。
(3)登記のみの法人や休眠会社でも課税対象に
Franchise Taxは、実際に営業活動を行っていない法人であっても、州に法人登記されている限り課税対象となるケースがあります。
これにより、「休眠会社に税金が発生していた」などの見落としが発生しやすいため、以下のような管理が重要です。
- 定期的な登記状況の確認(Secretary of Stateでの法人ステータス)
- 不要な法人の速やかなDissolution(解散手続き)
- 休眠中でも申告・納税義務があるかの確認
(4)Good Standing(適格法人資格)の維持
Franchise Taxを滞納した場合、法人は州から「Good Standing」を喪失したとみなされ、以下のような実務上の支障が生じる可能性があります。
- 銀行口座開設・維持の拒否
- ビジネスライセンスの更新不可
- 契約締結時の信用低下
- 株主・投資家への悪影響
そのため、Franchise Taxの申告・納税は「税務」だけでなく「法務・経営」の観点からも極めて重要であるといえます。
5.日系企業がFranchise Taxで注意すべき点
米国に進出する日系企業は、現地法人の設立や支店の開設にあたり、Franchise Taxの存在を見落としがちです。
しかし、これを軽視すると、思わぬコストや信用リスクにつながる可能性があります。
このセクションでは、日系企業がFranchise Taxについて特に注意すべきポイントを整理します。
(1)登記のみでも課税対象になるケース
「実際のビジネスはまだ始めていない」「支店はあるが売上はない」といった場合でも、州に法人として登録しているだけでFranchise Taxの課税対象となる場合があります。
- 例1:Delawareに法人だけを設立し、まだ事業開始前→年間$175〜$250,000のFranchise Taxが発生。
- 例2:Californiaに拠点を持つが、売上ゼロ→Minimum Franchise Taxとして$800が課税される。
このように、実態にかかわらず「存在していること」に対して課税される点がFranchise Taxの特徴です。
(2)駐在員事務所・支店・現地法人の形態による違い
日系企業がアメリカに進出する際、「駐在員事務所(Representative Office)」「支店(Branch)」「現地法人(Subsidiary)」のいずれかの形態を取ることがありますが、Franchise Taxとの関係では以下のような違いがあります。
形態 | Franchise Taxとの関係 |
駐在員事務所 | 基本的に課税なし(法人格がないため) |
支店 | 本社の外国法人に課税される場合あり(Foreign Qualification) |
現地法人 | その州の法人としてFranchise Tax課税対象 |
特に注意すべきなのは「支店扱い」と見なされた外国法人です。
州によっては「外国法人による事業活動」と判断され、Franchise Taxの申告義務が発生することがあります。
(3)多州にまたがる事業とApportionment(配分計算)
日系企業が米国の複数州で営業所や倉庫を展開している場合、Franchise Taxの計算にも売上や資産の州ごとの配分(Apportionment)が必要になります。
- 売上ベースのFranchise Taxを採用する州では、どの州にどれだけの売上があるかを正確に報告する義務あり。
- 州によってApportionment Formulaが異なるため、複数州で事業を行う場合には税理士のサポートが不可欠。
(4)本社(日本)側での課税影響と移転価格
Franchise Tax自体は米国の法人課税ですが、支店や子会社の費用構成や利益調整が、日本本社の移転価格ポリシーに影響を及ぼす可能性もあります。
たとえば、Franchise Taxを費用として計上した場合の日本側の処理方針なども、あらかじめ税務面で整合性を取ることが望まれます。
(5)日系企業でありがちな誤解と対処法
誤解 | 正しい理解 |
「事業をしていないから申告不要」 | 登記だけでも申告・納税義務がある場合あり |
「赤字だから税金はゼロ」 | Minimum Taxが課される州が多数 |
「法人税とFranchise Taxは同じもの」 | 課税対象も制度も異なる独立した税制 |
「設立しただけで忘れていた」 | 登記後、申告しなければペナルティ対象に |
Franchise Taxは、日本の法人税制度にはない概念であるため、進出初期に十分な理解がないまま放置されがちです。
しかし、申告忘れ・納税漏れが信用や実務に与えるインパクトは大きく、慎重な対応が求められます。
6.Franchise Taxに関するよくある誤解とFAQ
Franchise Taxは州ごとに制度が異なるうえ、法人所得税とは性質も仕組みも異なるため、進出初期の企業や日本側の本社担当者が誤解することも少なくありません。
このセクションでは、Franchise Taxに関してよくある誤解や実務上の疑問点をFAQ形式で解説します。
Q1.「Franchise Tax」ってフランチャイズビジネスに関係があるの?
いいえ、関係ありません。
Franchise Taxは「フランチャイズ契約」に基づく税ではなく、法人が州内で事業活動を行う“権利”に対して課される税です。
たとえチェーン展開などをしていなくても、法人登記をしていれば課税対象になる場合があります。
Q2.赤字や事業停止中でもFranchise Taxは払わなければならないの?
多くの場合、はい。
たとえばカリフォルニア州では、赤字でも事業が停止していても、法人が州に登記されていれば年額$800のMinimum Taxが課されます。
Delawareでも、資本に基づくFranchise Taxが課税されます。
営業実態の有無にかかわらず、登記状況が鍵になります。
Q3.法人税を払っているからFranchise Taxは別途払わなくていいのでは?
基本的には別物です。
Franchise Taxは法人所得税とは異なる制度であり、法人税とは別に申告・納税義務が発生します。
州によっては所得税とFranchise Taxが一本化されているような制度(例:New York)もありますが、それでもFranchise Taxとしての構成要素は残っているため、申告義務の見落としに注意が必要です。
Q4.すでに法人を設立したが、何もしていないので放置している。大丈夫?
早急に状況を確認してください。
「何もしていない」法人でも、Franchise Taxの申告義務や最低納税義務が発生している可能性があります。
未申告の状態が続くと、延滞ペナルティや利息、Good Standingの喪失につながるほか、法人の強制解散や登録取消の対象にもなり得ます。
Q5.州外に本社を置く法人は、その州でFranchise Taxを払わなくていい?
州内で「事業活動」と見なされる実態があれば、課税対象となる可能性があります。
たとえば、物理的拠点(オフィス、倉庫など)、営業活動(営業担当者の常駐)、あるいは州内顧客との継続的な取引などがある場合は、nexus(課税関係性)が認定され、Franchise Taxの申告・納税義務が生じます。
これを回避するには、正確なnexus判断が不可欠です。
Q6.州税申告の延長をしたら、納税も待ってもらえるの?
通常は申告のみ延長可能、納税は期限内に必要です。
多くの州では申告期限の延長(たとえば6ヶ月)は認められていますが、納税の延長は原則不可です。
見積納税(estimated tax payment)を申告期限までに行わなければ、利息やペナルティの対象になります。
Franchise Taxは制度の複雑さゆえに思わぬリスクを招きやすい税制です。
州ごとの要件や実務対応に不安がある場合は、ぜひ米国税務・会計に精通したUnivis America LLCまでご相談ください。