会社設立

Registered Agentとは?米国で会社を設立する際に欠かせない存在

米国で会社を設立する際には、「Registered Agent(登録代理人)」の指定が法律で義務づけられています。

これは、日本には存在しない制度であり、多くの方にとって馴染みのない概念かもしれません。

Registered Agentは、会社宛ての重要な書類—たとえば州政府からの通知や訴訟関連の文書—を確実に受け取るための、登記上の公式な連絡先です。

自社や代表者が兼任することも可能ですが、外部の業者に依頼するケースも多く、選び方によっては思わぬトラブルにつながることもあります。

本コラムでは、Registered Agentの基本的な役割や制度の背景、実務上の注意点について、実際の支援事例も交えながら分かりやすく解説していきます。

米国での会社設立や運営を検討されている方の一助となれば幸いです。

1.Registered Agentとは何か?

Registered Agent(レジスタード・エージェント)とは、法人に対して政府や裁判所から送られる公式通知や訴訟文書などを受け取るために指定される「法定代理人」です。

日本語では「登録代理人」と訳されることもありますが、日本にはこれに該当する制度がないため、誤解されやすい概念でもあります。

Registered Agentの主な役割は、以下の通りです。

Registered Agentの主な役割

  • 州政府から送付される税務通知やコンプライアンス関連書類の受領
  • 訴訟の通知(Service of Process)の受領
  • 上記書類の確実な受け取りと会社への迅速な通知

各州の会社法(例:Delaware General Corporation LawやNew York Business Corporation Lawなど)では、すべての法人は登記州内にRegistered Agentを指定することが義務付けられています。

指定された住所は「Registered Office」と呼ばれ、州の公式記録として公開されます。

この制度の背景には、会社が州外に本社を置いていたり、事業活動が一時的に停止している場合でも、州政府や第三者が常に連絡を取れるようにするという法的安定性の確保があります。

なお、「Registered Agent=業務の代理人」や「法的責任を持つ代表者」と誤解されることもありますが、Registered Agentはあくまで書類の受け取り役であり、会社の意思決定権や経営責任は持ちません。

このように、Registered Agentは米国法人設立における表に出にくいが不可欠な制度であり、設立時にはその役割とリスクを正しく理解しておくことが重要です。

2.なぜRegistered Agentが必要なのか?

Registered Agentは、単なる名目上の連絡先ではなく、会社が法的義務を果たすために欠かせない存在です。

米国の各州では、すべての法人にRegistered Agentの設置を義務づけており、これが欠けていると会社としての登録が無効とされたり、行政罰やペナルティの対象となることがあります。

Registered Agentが必要とされる主な理由は、以下の通りです。

Registered Agentが必要とされる主な理由

  1. 重要な書類の確実な受領
    州政府から送付される年次報告書(Annual Report)提出の通知、税務に関する通知、法的手続に関する書類(例:訴状、召喚状)などは、すべてRegistered Agent宛てに送付されます。
    これらの書類が確実に受け取られ、対応されないと、罰金や法人地位の喪失につながることもあります。
  2. 法的な連絡手段の確保
    Registered Agentは、州内に「常に連絡可能な窓口」があることを保証する制度です。
    会社が州外に拠点を持つ場合でも、訴訟の通知などを確実に届けられる仕組みが求められます。
    Registered Agentが不在、または登録ミスがあった場合、通知未達による欠席裁判での敗訴といった深刻な事態も起こり得ます。
  3. 州との登録維持に不可欠
    Registered Agentは会社の「登録情報」として州のデータベースに記録されます。
    住所や担当者の情報が変更された場合には速やかに更新が必要で、これを怠ると「不履行(non-compliance)」とみなされ、法人としてのステータスが“失効(Inactive)”や“Dissolved”に変更されてしまうリスクもあります。

Registered Agentの役割は地味に見えますが、「確実に受け取る」という基本的な役目を怠ることで、会社が重大な不利益を被る可能性があるという点を理解しておくことが重要です。

3.自分自身でRegistered Agentになれるか?

Registered Agentは、必ずしも外部の業者に依頼しなければならないわけではありません。

一定の条件を満たせば、自社や代表者自身がRegistered Agentを兼ねることも可能です。

費用を抑えたいスタートアップや個人事業主の中には、この方法を選ぶケースもあります。

自分自身でRegistered Agentになるための要件

以下の条件をすべて満たす必要があります:

  • 登記州内に居住している、または実体のある住所を持っていること(PO Box不可)。
  • 平日(通常は月〜金)の日中(通常は9:00〜17:00)に常時書類を受け取れる体制があること。
  • 法人設立書類に記載する「Registered Office」としてその住所を使用することに同意していること。

メリット

  • コストを削減できる:Registered Agent業者の年間費用($100〜300程度)を節約可能。
  • 通知が直接自分に届くため、対応のスピードを管理しやすい。

デメリット・リスク

  • 住所が公開情報となる:登記情報は各州のWebサイト等で一般に閲覧可能となるため、プライバシー上の懸念がある。
  • 営業時間中は常に対応可能な体制が必要:郵便や訴状の受け取りに対応できないと、法的手続きを失効させるおそれがある。
  • 住所変更時の手続きが煩雑:引越しやオフィス移転のたびに州に変更届を出さなければならず、漏れが生じるリスクがある。

法人の設立時や初期段階においては、自分自身でRegistered Agentを務めることも一つの選択肢です。

ただし、事業が拡大して拠点を移転したり、日中オフィスを不在にすることが増えるようであれば、信頼できる外部業者の活用を検討する時期かもしれません。

4.Registered Agentサービス業者を使う場合

Registered Agentは、自社や代表者が兼任することも可能ですが、多くの企業は専門業者によるサービスを利用しています。

特に以下のような事情がある場合は、業者利用を検討する価値があります。

業者利用を検討するべき事情

  • 会社の所在地が登記州外にある
  • プライバシーを確保したい(自宅住所を公開したくない)
  • 書類の見逃しや対応遅れのリスクを減らしたい
  • 法務・コンプライアンスの管理体制を外部に任せたい

Registered Agent業者は、単に書類を受け取るだけでなく、スキャンして即時通知する機能や、年次報告のリマインド、複数州にわたる法人管理サポートなども提供しており、特に事業が成長するにつれて利便性が高まります。

業者利用の主なメリット

  • プライバシーの保護:自宅やオフィスの住所を公開せずに済む
  • 対応の迅速化:スキャン・通知機能により書類対応が即可能
  • コンプライアンス管理の効率化:年次報告等の提出期限リマインダー機能
  • 全国対応の利便性:複数州に展開する法人にも対応

主なRegistered Agent業者

  • CSC – Corporation Service Company
    業界最大手。
    フォーチュン500の多くが利用。
    セキュリティと信頼性重視の企業に最適。
    価格は高めだが、グローバル管理やSOX対応が求められる企業には強力なパートナー。
  • Parasec (Paracorp Incorporated)
    1987年創業の老舗で、全米50州と一部米海外領土でサービスを提供。
    オンラインポータルや年次報告リマインダー機能も整備されており、対応の早さと丁寧なカスタマーサポートが評価されている。
  • CT Corporation (Wolters Kluwer)
    125年以上の歴史を持つ老舗。
    法務・コンプライアンス機能が充実しており、グローバル展開企業や法律事務所に多く採用されている。
    API連携やカスタムレポート機能など、エンタープライズ向けに最適。
  • NRAI – National Registered Agents, Inc.
    Wolters Kluwer傘下で、CT Corporationと同様に高い信頼性を誇る。
    全米および一部海外領土にも対応し、大手企業からも広く採用されている。
  • Northwest Registered Agent
    顧客サポートの評価が高く、柔軟な対応が魅力。
    法人設立手続きも併せて対応しており、中小企業に人気。

費用の目安

  • 年間費用は$100〜300が相場
  • CSCは大企業向け高機能型でやや高額($300〜以上)
  • Incfileは初年度無料プランあり

Registered Agentサービスは、単に義務を果たすだけでなく、事業の安定運営と法的リスク管理のインフラにもなります。

設立初期の段階ではコストと必要性のバランスを取りつつ、将来的な成長や多州展開も見据えた選択を検討するとよいでしょう。

5.バーチャルオフィスとRegistered Agentの違い

Registered Agentの話題とあわせてよく登場するのが「バーチャルオフィス(Virtual Office)」です。

どちらも住所に関連するサービスであるため混同されがちですが、役割も法的位置づけもまったく異なります。

Registered Agent:法的通知の受け取り専門

Registered Agentは、州政府や裁判所からの公式通知を受け取る法定代理人であり、会社設立時に必ず指定する必要があります。

この住所(Registered Office)は、原則としてPO Boxではなく、物理的な所在地であることが求められ、営業時間中に常時受領可能な状態でなければなりません。

バーチャルオフィス:ビジネス用途の住所サービス

バーチャルオフィスは、実際のオフィスを借りることなく、ビジネス住所を持つことができるサービスです。

郵便物の受け取り、電話転送、会議室利用などを含む場合もあり、主に以下の用途で利用されます。

バーチャルオフィスの主な使用用途

  • Webサイトや名刺などに記載するビジネス住所として
  • 郵便物の転送先として
  • クライアント向けに「実在するオフィス」を印象づけたい場合

両者の違いを整理

項目 Registered Agent バーチャルオフィス
主な目的 州・裁判所からの法的通知の受領 ビジネス住所・郵便転送・印象づくり
設置義務 州法により義務付けられている 義務ではない
使用可能な書類 設立登記などの法的書類 名刺・Webサイトなど商業用途
登録住所としての使用 州の法人登記情報に記載される 基本的には登記に使用不可
必要条件 実体のある住所・営業時間内に常駐 サービス提供会社による
実務上の注意点

  • バーチャルオフィスを登記住所に使用したい場合
    Registered Agentの住所との整合性や州法の要件を確認する必要があります。
    登録エージェント業者と連携して提供しているバーチャルオフィスであれば、対応可能なこともあります。
  • Registered Agentとバーチャルオフィスを同一業者に委託する場合
    契約内容とサービス範囲を明確に把握しておくことが重要です。

このように、Registered Agentとバーチャルオフィスは住所サービスという共通点はあるものの、目的・法的位置づけ・運用上の責任は大きく異なります。

両者を使い分けることで、プライバシーを守りつつ、法的義務と商業的信用の両立が可能となります。

6.州による違いと注意点

Registered Agentの制度は、すべての州に共通して存在しますが、その運用ルールや関連義務は州ごとに異なる点も多く、注意が必要です。

特に登記やコンプライアンス管理に関わる実務では、各州の特徴を把握しておくことでトラブルを未然に防ぐことができます。

代表的な州ごとのポイント

  • ニューヨーク州(New York)
    LLC設立時に新聞公告義務がある。
    設立後120日以内に、Registered Agentの所在郡にて一定期間、新聞広告を掲載する必要あり。
    これに伴い、Registered Agentの住所がどの郡にあるかが重要な検討ポイントになる。
    実務上、Albany郡に住所を置くRegistered Agentを選ぶことで公告費用を抑えるのが一般的。
  • デラウェア州(Delaware)
    Registered Agentの住所が州内にない限り、法人設立が認められない。
    Registered Agent業者の数・質ともに充実しており、全国対応の大手業者はたいていデラウェアに拠点を持っている。
    年次報告書やフランチャイズ税の通知もRegistered Agent宛に届く。
  • カリフォルニア州(California)
    Registered Agentの情報を頻繁に更新しないとペナルティの対象になる(Statement of Information未提出等)。
    自分自身をRegistered Agentとする場合、プライバシーの懸念が強まる(住所が公開されるため)。

外国会社(Foreign Corporation)として登記する場合の注意点

本社がある州とは別の州で事業を行う場合、その州で「外国会社(Foreign Corporation)」としての登録(Foreign Qualification)が必要になります。

この際にも、その州内のRegistered Agentの指定が必須です。

例:ニュージャージー州に本社がある企業がニューヨーク州でも営業する場合→ニューヨーク州にもRegistered Agentを指定

実務での注意点まとめ

  • Registered Agentを変更する際は、州への正式な届出が必要
  • 引越しや会社移転のたびに更新手続きが必要
  • 各州の提出書類や期限に関するリマインダー機能がある業者を選ぶと安心

Registered Agentの制度は全米共通の仕組みですが、その運用・義務・罰則は州法ベースで管理されているため、事業を展開する各州のルールを個別に確認することが不可欠です。

必要に応じて、Registered Agent業者や専門家と連携して管理体制を整えていくことが、事業継続のうえで重要なポイントになります。

7.よくある質問(FAQ)

Registered Agentに関する制度は、慣れていないと分かりづらい点が多く、初めて法人設立に関わる方から多くの質問が寄せられます。

ここでは、実務でよくある質問とその回答をQ&A形式でご紹介します。

Q1.Registered Agentは必ず指定しなければいけないのですか?

州や法人形態によって異なります。

多くの州では、Corporation(C-CorpやS-Corp)、LLCのいずれにおいてもRegistered Agentの指定が義務付けられています。

ただし、ニューヨーク州のCorporation(C-Corpなど)では、Registered Agentの指定は任意です。

指定しない場合、州務長官(Secretary of State)が自動的にService of Processの受領者となります。

一方、LLCの場合は新聞公告義務があるため、Registered Agent業者を利用して住所を指定するのが実務上一般的です。

Q2. Registered Agentはいつでも変更できますか?

はい、可能です。

Registered Agentを変更する場合は、登記している州の州務長官(Secretary of State)に変更届を提出する必要があります。

多くの州ではオンライン申請が可能で、手数料($20〜$50程度)が発生する場合もあります。

Q3. Registered Agentが不在だった場合、何が起きますか?

Registered Agentが法的通知(例:訴状)を受け取れない状態にあると、通知が「未達」となり、裁判で欠席判決(default judgment)を受けるリスクがあります。

また、州からの年次報告の通知が届かずに期限を過ぎると、法人地位の失効や罰金の対象となることもあります。

Q4.自宅住所をRegistered Agentの住所として使うことはできますか?

はい、登記州内に物理的な住所(PO Box以外)があり、営業時間中に常時書類を受け取れる状態にある場合は、自宅住所を使用することも可能です。

ただし、その住所が州の公開記録に掲載されるため、プライバシー上のリスクがあります。

Q5.Registered Agentの住所と会社の所在地は同じでなければいけませんか?

いいえ、Registered Agentの住所は会社の実際の所在地と異なっていても構いません。

Registered Agentの住所は「法的通知の受領用」としての登録であり、会社のビジネス住所とは区別されます。

Q6. 1社で複数の州に事業を展開する場合、Registered Agentはどうすればいいですか?

各州で「外国会社(Foreign Corporation)」として登録する際には、その州ごとにRegistered Agentを指定する必要があります。

多州にまたがって事業展開する場合は、全国対応している業者を選ぶことで、一括管理が可能になります。

Q7.Registered Agentとバーチャルオフィスを兼ねることはできますか?

一部の業者では、Registered Agentサービスとバーチャルオフィスサービスを同一住所で提供している場合があります。

ただし、州法や業者の契約内容によって制限があるため、兼用を希望する場合は事前に確認が必要です。

8.まとめ・チェックリスト

米国で法人を設立・維持するうえで、Registered Agentの指定は法的義務であると同時に、企業の信頼性やコンプライアンス体制を支える重要な要素です。

本コラムを通じて、Registered Agentの基本的な役割、選び方、州ごとの違いや注意点などを解説してきました。

最後に、Registered Agentの選定・管理にあたって確認すべきポイントをチェックリストとしてまとめます。

チェック項目 内容
登記州内の実体住所があるか? 自社で担う場合は、物理住所と常駐体制が必要(PO Box不可)
法的通知の受領体制が確保されているか? 平日の日中に対応可能な体制があるか確認
自社のプライバシーを保ちたいか? 自宅住所を公開したくない場合は外部業者の活用を検討
州ごとのルールを把握しているか? LLCの新聞公告義務(NY州など)や住所公開の影響を事前確認
書類の受け取り通知・管理機能が必要か? スキャン通知やリマインダー機能の有無を業者比較時に確認
将来的な多州展開を予定しているか? 複数州対応業者で一括管理できる体制を検討
Registered Agent変更時の手続きが理解できているか? 州への変更届提出や手数料について確認済みか
バーチャルオフィスと混同していないか? 用途・法的位置づけの違いを明確に区別

Registered Agentは「一度登録したら終わり」ではなく、継続的に管理・見直しを行うべき制度です。

特に拠点の移転や事業の多州展開、組織再編などがある場合は、Registered Agentの再評価が必要になることも少なくありません。

法人設立の初期段階では費用を抑えるために自社で担う選択肢もありますが、事業拡大とともに外部の専門業者を活用することで、法的リスクを回避しつつ管理負担を軽減することができます。

Univis Americaでは、Registered Agent制度に関するご相談や、設立州・法人形態に応じた最適な選択肢のご提案も承っております。

会社設立やコンプライアンス体制の整備に関してお困りの際は、お気軽にご相談ください。