FBAR(FinCEN Form 114)とFATCA(Form 8938)完全ガイド
米国に居住している方々の中には、FBAR(エフバー)という言葉を聞いたことがある方が少なくないかと思います。米国居住者や米国永住権もしくは米国市民の方は、海外にある銀行口座や投資口座などを報告する義務があり、その報告に利用するフォームが FBAR(FinCEN Form 114) と FATCA(Form 8938) です。
これらのフォームの名前は似ていますが、提出先や対象範囲、金額基準が異なります。本記事では、それぞれの特徴と違い、さらに過去に報告していなかった場合の対応策までわかりやすくまとめました。
日本に金融資産をお持ちの米国居住者や米国永住権保持者、米国市民の方は、ご自身の米国外資産の内容を確認し、確定申告書で各フォームが正しく報告されているかチェックすることをお勧めします。
1. FBAR(FinCEN Form 114)とは?
FBARは、米国財務省(FinCEN)に提出する書類で、海外にある銀行口座や証券口座、投資口座などを報告する制度です。資金洗浄・テロ資金供与・脱税対策のため、海外に隠された資金を把握し、マネーロンダリングや金融犯罪を防止することが目的です。なお、FBARは税金の申告ではなく情報開示のための書類ですので、報告による税金は発生しません。
- 対象者:米国市民、米国永住権保持者、税務上の米国居住者、米国法人(米国市民や米国永住権保持者は、米国外に住んでいても対象になります)
- 提出義務:年間で海外口座の合計が 10,000ドル超(10,000ドルを超える口座のみではありません)
- 対象資産:米国外の銀行口座、証券口座、投資口座、私的年金口座など
- 提出方法:オンライン(BSA E-Filing System)
- 提出期限:4月15日(自動延長で10月15日まで可能)
- ペナルティ:過失の場合は最大10,000ドル(但し、インフレ調整により2025年時点では16,536ドル)、故意の場合は口座残高の50%と100,000ドル(但し、インフレ調整により2025年時点では165,353ドル)の大きい額に加え、刑事罰の可能性もあり。
2. FATCA(Form 8938)とは?
FATCAは、アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)に提出する書類で、海外にある金融資産を報告する制度です。FATCAは課税強化・税収確保の観点から求められる開示であり、FBARよりも広い範囲をカバーし、課税逃れを防ぎ税収を確保することが目的となります。さらに、FATCAは米国外の金融機関にも米国居住者が保有する口座のIRSへの報告義務を課しているため。FBARと同様、FATCAも税金の申告ではなく情報開示のための書類ですので、報告による税金は発生しません。
- 対象者:米国市民、米国永住権保持者、税務上の米国居住者、一部の法人(米国市民や米国永住権保持者は、米国外に住んでいても対象になります)
- 報告義務の基準(個人の場合):
– 単身申告者(米国内居住):海外資産の合計の年末残高50,000ドル超もしくは暦年中に75,000ドル超
– 夫婦合算申告者(米国内居住):海外資産の合計の年末残高100,000ドル超もしくは暦年中に150,000ドル超
– 税務上の米国居住者であっても海外居住者は基準が4倍に緩和 - 対象資産:米国外の銀行口座、証券口座、投資口座、私的年金口座に加え、海外法人の株式や外国パートナーシップの持分など
- 提出方法:確定申告書(Form 1040)に添付
- ペナルティ:基本的には最大10,000ドル。IRSからの開示通知を受領した場合、30日経過するごとにさらに10,000ドルが加算され、最高60,000ドル。加えて、加算税や刑事罰の可能性もあり。
3. FBARとFATCAの違い
上述のFBARとFATCAの違いをまとめると、以下の表の通りです。
| FBAR | FATCA | |
| 提出先 | FinCEN | IRS |
| 提出方法 | 独立したオンライン申告 | 確定申告書(Form 1040)に添付 |
| 対象額 | 10,000ドル超 | 50,000ドル~ (申告状況・居住地で変動) |
| 対象範囲 | 銀行口座、証券口座、私的年金口座などの 金融資産口座 |
金融資産口座+法人株式・持分など広範囲 |
| 罰則 | 最大口座残高の50%など (インフレ調整あり) |
最大60,000ドルなど |
| 提出期限 | 4月15日(自動延長10月15日) | 確定申告と同じ |
なお、これらのフォームの違いについてはIRSの公式サイトでもまとめられているので、詳細を確認されたい場合はこちらをご参照ください。特に対象となる資産の範囲は複雑ですので、専門家へご相談いただくことをお勧めします。
4. FBARに関するよくある誤解
「グリーンカードを持っているけど、アメリカに住んでないから関係ない」
→ 誤り。米国永住権保持者は米国外に住んでいても税務上は米国居住者としてみなされるため、対象になります。
「1口座で10,000ドルを超えなければ大丈夫」
→ 誤り。全ての海外資産の合算で判定します。
「一時的に10,000ドルを超えただけだから不要」
→ 誤り。年間で一瞬でも超えれば提出対象です。
「日本円で100万円くらいだから関係ない」
→ 誤り。為替換算レートによっては10,000ドルを超える場合があります。
「解約済みの口座であり、年末には存在していないから関係ない」
→ 誤り。その年に一度でも存在した口座は対象(解約済みでも残高がゼロになる前の最大額を含める)
5. 過去に報告していなかった場合の対応
もし過去に海外口座の報告を忘れていた場合、放置すると高額のペナルティが課せられるリスクがあります。しかしながら、単なる提出漏れや非故意により未提出である方々を救済するための手続きが存在します。
ただし、これらの手続きは複雑になることが多いため、税務専門家に相談して安全に申告することが最も安心です。
FBAR
(A) Delinquent FBAR Submission Procedures
税務申告書類に不備がなく、単にFBARを出し忘れていた場合はDelinquent FBAR Submission Proceduresを行います。出し忘れていた期間のFBARを提出が遅れた説明文とともにFinCENへ提出します。通常ペナルティは課せられません。
(B) Streamlined Filing Compliance Procedures
税務申告書類に不備があったが、申告漏れが「非故意」 である場合にStreamlined Filing Compliance Proceduresを行います。過去3年分の確定申告書の修正及び「申告漏れが非故意であった」旨の宣誓書(米国外居住者はForm 14653/米国内居住者はForm 14654)をIRSに提出し、過去6年分のFBARをFinCENに提出します。
米国外に居住している場合はペナルティが免除されますが、米国内に居住している場合は過去6年間に保有していた金融資産の最高額に対して 5% のペナルティがIRSにより課せられます。
(C) Voluntary Disclosure Practice
税務申告書類の不備やFBARの未提出が故意によるものと疑われ、刑事罰や多額のペナルティが課される可能性がある場合はVoluntary Disclosure Practiceに基づき、弁護士等を通してIRSにペナルティの軽減を交渉することになります。
FATCA
FATCAに基づくForm 8938は確定申告書(Form 1040)の一部を構成するフォームとなるため、所得の申告漏れがなく、単にForm8938を出し忘れていた場合、過去の確定申告(Form 1040)を修正し、Form 8938を添付した修正確定申告書(Form1040-X)を提出します。ペナルティは通常最大で10,000ドルとなります。
税務申告書類の不備が非故意であったり、故意によるものと疑われる場合はFBARの場合同様、Streamlined Filing Compliance Procedures またはVoluntary Disclosure Practice を利用し、交渉を行うことになります。
まとめ
FBARもFATCAも「米国外の保有する資産を報告する制度」ではありますが、利用目的の違いから提出先や条件が異なります。米国在住者や駐在員で日本に銀行口座や証券口座を持つ方は両方の提出が必要になるケースも多く、毎年正確に提出が行うとともに、過去の期間の報告に不安がある場合は早めの確認と対応をお勧めします。
Univis Americaでは、FBARやFATCA、米国確定申告はもちろん、日米間での税務に関するお悩みや複雑な条約適用に関するご相談を幅広く承っております。
ご不明点やご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。皆様の米国でのご活躍をサポートいたします。
▪ CASE|支援事例-三菱倉庫グループCavalier Logistics, Inc. 様
米国企業の買収から決算統合を共に並走。日本語で気軽に相談できる会計のパートナー
▪ CASE|支援事例-DNP Imagingcomm America Corporation 様
北米事業の成長とガバナンス強化を両立。日本語で気軽に相談できる信頼の会計パートナー
監修者
吉野 真貴
早稲田大学商学部を卒業後、有限責任あずさ監査法人の金融部門に入所。2017年よりKPMG Dublinに駐在し、航空機リース会社を中心に監査・税務・アドバイザリー業務に従事。2021年よりUnivis America LLCに参画し、新規ビジネス開拓を担当。