Individual Tax

Fビザ保持者のための米国税務ガイド

はじめに:Fビザとは?

Fビザは米国における代表的な非移民ビザ(temporary visa)のひとつで、大学や大学院、語学学校などでの学業を目的とするビザです。移民法上は、EビザやLビザと同じ「一時的な滞在資格」に含まれますが、就労を前提としたビザではないという点で性質が大きく異なります。

そのため、基本的には学業のための滞在であり、米国税務とは直接関係しない場合が多いといえます。ところが、以下のような状況に当てはまると、Fビザ保持者にも米国での申告や税務上の判断が必要になります。

米国での申告や税務上の判断が必要となるケース

・OPT(Optional Practical Training)を利用して就労し、給与収入を得る場合
・日本での収入(給与・配当・不動産収入など)がある場合
・MBAなど社費派遣で日本企業から給与・生活費補助・学費のサポートを受けている場合

これらのケースでは、米国での課税範囲の判定や租税条約の適用など、Fビザ特有の論点が生じます。

本コラムでは、Fビザ保持者が特に注意すべき居住区分の判定、所得の取扱い、FBARやForm 8843の提出義務について整理し、代表的なケースをわかりやすく解説します。

1. Fビザ保持者の税務上の居住区分の原則

米国市民や永住権保持者を除く外国人は、通常 Substantial Presence Test(実質滞在日数テスト, SPT に基づき、税務上「居住者(Resident Alien)」か「非居住者(Nonresident Alien)」かを判定します。
この居住区分は、申告書の種類や課税範囲に大きく影響します。

居住者(Resident Alien)

・全世界所得が課税対象
申告書は Form 1040
標準控除や配偶者控除などの居住者向け優遇措置を利用可能
FBARやFATCAなど米国外資産の報告義務が発生
非居住者(Nonresident Alien)

・米国源泉所得(U.S. source income)のみ課税対象
申告書は Form 1040NR
標準控除などの恩恵は限定的

実質滞在日数テストの詳細については、コラム「居住者、非居住者、Dual Statusの判定」をご参照ください。

この点、Fビザ(学生ビザ)保持者は、移民法上はEビザやLビザと同じ「非移民ビザ」に分類されますが、学業を目的とするビザであり、就労系ビザとは性質が異なります。
この特徴から、税務上も特別な取扱いがあり、原則として最初の5暦年間は「免除個人(Exempt Individual)」としてSPTの滞在日数計算から除外されます。

その結果、多くのFビザ保持者は米国内に長期間滞在していても、この期間は税務上は非居住者(Form 1040NR)として扱われます
ただし、6年目以降は免除期間が終了し、SPTの対象となるため居住者扱いになる可能性が高い点には注意が必要です。

2. Form 8843の提出義務

Fビザ保持者は、原則として最初の5暦年間「免除個人(Exempt Individual)」に該当します。また、免除個人に該当する人には、収入の有無にかかわらず Form 8843 を毎年提出する義務があります。

2-1. 提出の目的

Form 8843は「私は免除個人に該当しますので、SPTの日数計算から除外されます」という事実をIRSに届け出るための書類です。

2-2. 提出が必要な人

  • Fビザ、Jビザ、Mビザ、Qビザで米国に滞在している学生・研究者・交流訪問者
  • 所得の有無を問わず提出義務あり

2-3. 提出期限と方法

  • 期限:通常は翌年4月15日(確定申告期限と同じ、延長も可能)
  • 所得がある場合:Form 1040NRに添付して提出
  • 所得がない場合:Form 8843単独で提出

2-4. 提出しなかった場合のリスク

  • IRSに非居住者ステータスを認めてもらえず、居住者扱いとされるリスクが生じます。その結果、世界中の所得が米国で課税対象とされる可能性があります。
  • 将来移民・ビザ手続きを視野に入れている場合、手続きの過程で「米国での税務コンプライアンス」を証明するため、過去の確定申告書類を求められることがあります。 Form 8843の提出はFビザ所有者の義務であるため、米国での税務コンプライアンスを守っていないと見做され、手続き上不利になるリスクがあります。

3. Fビザ保持者(非居住者)の課税関係

非居住者(Form 1040NRを提出)の場合、米国源泉所得(U.S. source income)のみ課税対象となり、日本を含む外国源泉所得は米国課税の対象外です。なお、州税に関しては州ごとに課税ルールが異なるとともに、日米租税条約を採用していない州もあるため、取り扱いについては専門家に確認することをお勧めします。

3-1. 給与収入

  • 米国内の企業・大学等からの給与(アルバイト・TA/RA・インターン)
    → 米国源泉所得として課税対象となります(W-2が発行されます)
    → 非居住者の場合はFICAと呼ばれるSocial SecurityやMedicare税は原則免除されますが、雇用主が誤って控除している場合があります。もし毎月の給与からFICAが控除されている場合は雇用主に確認することをお勧めします。
  • 日本企業から支給される給与・生活費補助・学費補助(社費留学など)
    → 米国滞在中の労務提供とみなされるリスクがあるため、原則的には米国源泉所得となります。
    → Form 1040NRで申告し、日米租税条約第20条を適用して免税を主張する(Form 8833を添付)のが実務上は望ましいです。

3-2. 奨学金・助成金

  • 授業料・教材費に充当される部分 → 非課税
  • 生活費・住宅費に充当される部分 → 米国源泉所得とされ課税対象(ただし条約により免除できる場合があります)

3-3. 利子・配当・不動産収入

  • 米国内源泉
    • 銀行利子:非課税(非居住者免税の特例あり)
    • 株式配当:原則30%源泉徴収(日米租税条約で10%に軽減)
    • 不動産賃貸収入:原則30%源泉徴収。ただし選択により経費控除後の純利益に累進課税を適用可能です。
  • 米国外源泉(日本を含む)
    • 日本の銀行からの利子・日本の企業からの配当・日本に所在する不動産収入はすべて米国非課税(申告不要)

3-4. キャピタルゲイン

  • 米国内資産の売却
    • 株式・有価証券:非居住者は原則非課税。ただし その年に米国滞在が183日以上ある場合には、売却益の全額に30%課税(IRC §871(a)(2))
    • 不動産:常に課税対象(FIRPTAと呼ばれる源泉徴収の適用あり)
  • 米国外資産の売却
    • 非課税(申告不要)

3-5. その他

  • FBAR / FATCA → 米国外に保有する金融資産が一定を超える際の報告義務ですが、非居住者期間中は提出義務はありません。

4. まとめ

Fビザ保持者の税務上の取扱いは、以下の通りまとめられます。

  • 居住区分:Fビザ保持者は原則として免除個人に該当し、最長5年間は非居住者として扱われる。ただしForm 8843の提出は義務であり、提出を怠ると非居住者としての取扱いが否認されるリスクがある。
  • 所得の課税範囲:非居住者は原則米国源泉所得のみ課税対象となる。奨学金は用途により課税される。日本企業からの給与や補助は、連邦では租税条約により免税を受けられるが、州では課税対象となる場合がある。
  • 州税の注意点:多くの州は租税条約を採用していないため、連邦と課税範囲が異なる場合がある。
  • 長期滞在後の変化:Fビザでの滞在が5年を超えるとSPTが適用されるため、居住者扱いとなることが多い。FBARやFATCA報告義務も発生するため、税務負担が大きく変わる。

Fビザ保持者は「自分が非居住者か居住者か」「どの所得が課税対象になるか」を正確に把握することが重要です。
特に将来米国で働きたいと考えている学生の方々にとっては移民手続きや監査リスクも見据えて、適切な対応を行うことが望まれます。

本稿で取り上げた内容は一般的な解説に過ぎず、個々の状況によって最適な申告方法や対応は異なります。ご自身のケースについて詳しく確認したい場合は、ぜひ Univis America にご相談ください。

監修者

吉野 真貴

早稲田大学商学部を卒業後、有限責任あずさ監査法人の金融部門に入所。2017年よりKPMG Dublinに駐在し、航空機リース会社を中心に監査・税務・アドバイザリー業務に従事。2021年よりUnivis America LLCに参画し、新規ビジネス開拓を担当。