Corporate Tax

Form 1099-NEC提出に向けた事前準備

1. はじめに―なぜForm 1099-NECが重要なのか

米国で事業を行う企業にとって、非従業員(フリーランスや業務委託先など)への報酬支払いは、今や日常的な取引のひとつです。

こうした支払いに対しては、支払者にIRS(米国国税庁)への情報報告義務が課されており、その際に使用されるのがForm 1099-NECです。

Form 1099-NECは、2020年に再導入された比較的新しいフォームであり、それ以前はForm 1099-MISCの一部として扱われていた「非従業員報酬(Nonemployee Compensation)」の報告を、独立した形で行うことが義務付けられています。

その目的は、外部の労働力に対する報酬を正確にIRSに報告させ、税務の透明性を高めることにあります。

しかし実務では、「提出の必要があるかどうかの判断が難しい」「提出の準備が間に合わない」「誤った相手に出してしまう」といった混乱も多く、特に米国の税務制度に不慣れな日系企業にとっては、見落としがちなポイントでもあります。

本記事では、Form 1099-NECの提出が必要となるケース、対象となる支払内容、提出手続き、注意すべきリスク、そして社内での対応の整え方について、実務的な観点からわかりやすく解説します。

基本的な理解から、具体的な対応フローのヒントまでを提供することで、読者の皆様が安心して1099-NECの提出業務に対応できるようになることを目的としています。

2. Form 1099の種類

Form 1099は、企業や個人事業主が従業員以外の相手に対して行ったさまざまな支払いについて、IRS(米国国税庁)に報告するための情報提出書類(Information Return)です。

支払先の所得申告を促す役割を担っており、給与の報告に使われるForm W-2とは別に、「非従業員」に対する支払いをカバーする制度として広く活用されています。

Form 1099にはいくつかの種類があり、支払内容によって使い分ける必要があります。

主な例は以下の通りです。

Form 1099の種類と用途

  • Form 1099-NEC:業務委託報酬、紹介料など(非従業員へのサービス報酬)
  • Form 1099-MISC:家賃、ロイヤリティ、賞金、和解金など
  • Form 1099-INT:利子の支払い(例:社内貸付や預金利息)
  • Form 1099-DIV:配当金の分配
  • Form 1099-K:オンライン決済プラットフォーム経由の支払い(例:PayPal、Square)

このうち、最も日系企業が関わりやすく、実務での提出頻度が高いのがForm 1099-NECです。

たとえば、通訳者、翻訳者、現地のコンサルタントなどに対して業務報酬を支払った場合、それが年間600ドル以上であれば、1099-NECによる報告義務が発生します。

3. Form 1099-NECの提出が必要なケース―「誰が」「誰に」「何を支払ったとき」に報告義務が生じるのか?

Form 1099-NECの提出義務があるのは、米国内で事業を行っている法人や個人事業主などの「支払者」です。

これは米国法人に限らず、日本企業が米国に現地法人を設立している場合や、米国内で恒久的施設(PE)を持つ場合も対象になります。

事業活動の一環として報酬を支払ったのであれば、報告義務が発生する可能性があります。

報告の対象となるのは、主に以下の3つの条件をすべて満たす場合です。

条件1:支払者が「米国内で事業を行っている者」であること

たとえば、米国法人(C-Corp、S-Corp、LLCなど)や日本法人の米国子会社や支店、米国で不動産賃貸やコンサル業などの継続的な商取引を行っている個人・事業体が該当します。

条件2:支払先が「米国納税義務のある個人・事業者」であること

具体的には、TIN(Taxpayer Identification Number)を持つ米国居住者または法人が対象です。

外国法人や非居住者は通常Form 1099の対象外ですが、別途Form 1042-Sでの報告が必要になる場合があります。

条件3:支払内容が「非従業員へのサービス報酬」であり、金額が年間$600以上であること

該当する支払いの例

  • 翻訳・通訳、マーケティング、リサーチ、現地サポートなどの業務委託報酬
  • コンサルタントやアドバイザーへのスポット契約報酬
  • 紹介料・成功報酬・仲介料など、継続性がなくてもサービス提供に対する対価であるもの
  • 一時的なイベントスタッフや撮影クルーなどへの非従業員としての報酬

これらの報酬を1年間の合計で600ドル以上支払った場合には、Form 1099-NECの提出義務が生じます。

なお、支払いが複数回に分かれていた場合でも、年間合計金額で判断します。

例えば、月100ドルの顧問契約がある場合、7か月目で600ドルを超えた時点で報告対象となります。

4. 提出が不要なケース―出しすぎも出し忘れも避けるために知っておきたい判断基準

Form 1099-NECは提出漏れが問題になる一方で、本来提出が不要なケースで誤って提出してしまうこともトラブルの原因になります。

特に支払先や支払内容によっては、報告義務がないケースもあるため、以下のようなケースでは提出が不要または別のフォームで対応すべきであることを確認しましょう。

(1) 支払先が法人(Corporation)の場合

原則として、支払先がC CorporationまたはS Corporationである場合はForm 1099-NECの提出は不要です。

W-9を通じて法人形態を確認し、”Corporation”にチェックが入っていれば提出対象外と判断されます。

ただし、弁護士(attorney)への報酬については法人であっても例外的に提出が必要となるため注意が必要です。

(2) 商品の購入や実費精算など、サービス報酬以外の支払い

Form 1099-NECは「サービスの対価としての報酬」を報告するためのものであり、以下のような支払いは対象外です。

Form 1099-NECの対象外支払い

  • 商品や備品の購入代金
  • 飲食費、交通費などの実費精算(領収書による原価精算)
  • ソフトウェアやシステムのライセンス料(※サービス要素を含む場合は要判断)

(3) 支払先が外国法人・非居住者の場合

支払先が米国外に所在し、TIN(納税者番号)を持たない外国法人や非居住者である場合、Form 1099の提出義務はありません。

ただし、支払いが米国源泉所得に該当する場合には、代わりにForm 1042-Sなどでの報告が必要となることがあります。

(4) 年間支払額が600ドル未満の場合

非従業員へのサービス報酬であっても、1年間の支払総額が600ドル未満の場合は提出義務がありません。

ただし、年度途中で支払金額が基準を超えた場合や、継続的な契約で年内に超過が見込まれる場合には、早めに準備を進めておくことが望ましいです。

(5) 給与・賞与など従業員に対する支払い

従業員に対して支払う給与・賞与・通勤手当などは、Form 1099-NECではなくForm W-2で報告する必要があります。

支払先が従業員か独立した事業主(Contractor)かを誤認すると、労働関連法や税務調査の対象になることもあるため、雇用契約の有無・勤務実態などをもとに慎重に判断しましょう。

5. 実務で気をつけたい判断ポイント―情報不足や思い込みによるミスを防ぐために

Form 1099-NECの提出が必要かどうかの判断は、金額や支払先の属性だけでなく、契約内容・実態・支払方法などの複数の要素に基づいて行う必要があります。

ここでは、実務で特に注意すべきポイントを紹介します。

(1) Form W-9の取得と事前確認の徹底

支払先に報酬を支払う前に、必ずForm W-9を取得し、相手の正式名称・TIN(納税者番号)・法人形態を確認しましょう。

W-9がないまま支払ってしまうと、報告内容の誤りや提出漏れのリスクが高まり、Backup Withholding(24%源泉徴収)の義務が発生する可能性もあります。

(2) 法人か個人か、書類だけでなく実態も確認

W-9に「LLC」と記載されていても、税務上は個人事業主扱いとなることがあります。

また、法人であっても弁護士報酬など特定の支払いは提出対象となるため、法人形態の確認だけで判断せず、契約内容と支払の性質も併せて確認することが重要です。

(3) 従業員か業務委託か―W-2との区別

報酬の支払先が個人である場合、雇用契約の有無や指揮命令関係があるかどうかを確認し、従業員(W-2)として扱うべきか、業務委託(1099-NEC)として扱うべきかを慎重に判断する必要があります。

以下のような点が判断材料になります。

判定の基準 従業員(W-2) 業務委託(1099-NEC)
勤務時間・方法の指示 あり 原則なし(自由裁量)
業務用ツールの提供 会社が支給 原則として自前
給与支払い頻度 定期的(毎月など) 不定期、プロジェクト単位など
社会保険・税の扱い 雇用主が源泉・負担 自己申告・自己負担

誤って業務委託として扱うと、税務調査や労務違反につながるリスクがあります。

(4) 支払い方法にかかわらず提出義務はある

現金、小切手、銀行振込、ACH、さらには海外送金であっても、支払手段によってForm 1099の要否が変わることはありません。

また、PayPalなどの決済代行業者を利用した場合も、報酬の性質が1099-NECの対象であれば、支払者が直接報告義務を負う場合があります(※Form 1099-Kとの重複に注意)。

(5) 社内フローと年間スケジュールを整える

Form 1099-NECは年末に急いで準備しがちな業務ですが、支払のタイミングで判断とW-9回収を済ませておくことが、年明けの混乱を防ぐ鍵です。

次のような対応が推奨されます。

Form 1099-NEC 社内フローと年間対応

  • 契約締結時にW-9を必須書類として取得
  • 年間の支払先を一覧化し、基準額超過見込みのある相手を早期に抽出
  • 電子提出体制(e-File)や提出代行業者の活用も含めた社内手順の整備

6. 提出の手続とスケジュール―期限厳守と電子提出対応が求められる実務の現場

Form 1099-NECの提出業務は、単なる帳票作成にとどまらず、期限の管理・提出方法の選択・提出後の保管までを含む一連のフローとして捉える必要があります。

以下では、実務で押さえておくべき主要なポイントを順を追って解説します。

(1) 提出先は「受給者」と「IRS(米国国税庁)」の両方

Form 1099-NECは、支払先(報酬を受け取った個人や事業者)とIRSの両方に提出する必要があります。

Form 1099-NECの提出先

  • 受給者への提出(送付):郵送または電子送信(PDF等)
  • IRSへの提出:紙または電子での提出(提出件数により制限あり)

(2) 提出期限は翌年1月31日―延長不可

報酬を支払った翌年の1月31日が提出期限です。

これは受給者提出とIRS提出の両方に共通します。

たとえば、2025年中に支払った報酬の場合、2026年1月31日までに提出が必要になります。

Form 1099-MISCとは異なり、1099-NECには原則として提出期限の延長制度がありません。

年明けに慌てないよう、前もって情報整理と帳票準備を済ませておくことが重要です。

(3) 10枚以上の提出がある場合は電子提出が必須

2024年提出分以降、IRSは提出義務のある帳票(Form 1099を含む)の年間合計が10枚以上の場合、電子提出(e-File)が義務とされています。

Form 1099-NEC単独ではなく、他の1099シリーズやW-2、Form 1042-Sなどとの合算で10枚を超えるかどうかで判断されます。

電子提出には以下の手段があります。

Form 1099-NECの電子提出方法

  • IRIS(Information Returns Intake System):IRS公式のオンライン提出ポータル(無料、近年導入)
  • FIRE(Filing Information Returns Electronically):従来の電子提出システム(やや複雑)
  • 外部の提出代行業者を利用:費用は発生しますが、手間やミスのリスクを軽減

(4) 提出控えの保管と訂正対応も忘れずに

提出後は、送付記録やW-9のコピーを含めた控え書類を少なくとも4年間保管しておくことが推奨されます。

また、記載ミスや漏れが判明した場合には、速やかにCorrected 1099の再提出が必要となります。

提出内容に基づいてIRSや受給者が税務申告を行うため、正確かつタイムリーな処理が求められる点を意識しておきましょう。

7.よくある質問(FAQ)

Q1. 支払先が日本の銀行口座しか持っていないフリーランスでも、Form 1099-NECは必要?

米国の納税者番号(TIN)を持っており、米国居住者または米国の課税対象者であれば、支払方法にかかわらず報告が必要です。

送金先が日本の口座でも、対象者が米国納税者であれば1099-NECを提出します。

逆に、完全な非居住者(外国法人や日本在住の個人など)への支払いであれば、Form 1099ではなくForm 1042-Sなどが適用されます。

Q2. 支払額が600ドルを少し下回っていた場合でも、Form 1099-NECを出しておいた方がいい?

原則として、年間600ドル未満であれば提出義務はありません。

ただし、以下のような場合には任意で提出しておくことで、後のトラブルを防げることがあります。

任意提出が望ましいケース

  • 相手側(受給者)が「1099がないと確定申告に支障がある」と希望している
  • 年内に金額が600ドルを超える見込みが高い
  • 社内ルールで「少額でも提出を徹底」している

Q3. 弁護士に報酬を払ったが、支払先は法人。Form 1099-NECは必要?

はい、必要です。

弁護士報酬は、支払先が法人であっても例外的に報告対象となります。

Form 1099-MISCのBox 10で報告するケースが多いですが、内容によってはNECに該当することもあるため、契約内容と報酬の性質を確認のうえ適切なフォームを選びましょう。

Q4. PayPalなどのオンライン決済サービスで報酬を支払った場合は?

原則として、支払者が事業者であり、支払内容が報酬に該当する場合はForm 1099-NECの対象となります。

ただし、決済サービス側(PayPalなど)がForm 1099-Kを発行する場合との重複を避けるため、取引の処理方法や契約形態を確認し、不要な二重報告を避けることが重要です。

Q5. W-9をもらえないまま支払いをしてしまった。どうすればよい?

TINが確認できないまま支払いを行うと、24%の強制源泉徴収(バックアップ・ウィズホールディング)が義務付けられる場合があります。

可能であれば速やかにW-9を再依頼し、未提出であれば支払いを一時保留にするなど、社内ルールを整備しておくことが推奨されます。

過去に支払った分については、税務顧問に相談のうえ対処しましょう。

まとめと対応のすすめ―年明けに慌てないために、今から準備すべきこと

Form 1099-NECは、単に帳票を作成・提出するだけの作業ではありません。

支払いの性質、相手先の属性、契約内容、金額など多くの判断要素が絡み、実務上の手間とリスクが意外と大きい業務です。

特に日系企業にとっては、日米の会計・税務慣行の違いからくる誤解や、米国制度への不慣れにより、「提出すべきなのに出していない」「逆に不要なのに出してしまった」といった問題が起こりがちです。

このコラムで解説してきたように、正しい対応のためには以下のような準備が不可欠です。

Form 1099-NEC提出に向けた事前準備

  • W-9の早期取得と情報管理のルール整備
  • 契約時点での提出要否判断と社内チェックの仕組み化
  • 電子提出への備え(IRISの利用登録、提出代行の選定など)
  • 支払い内容の分類ルールやFAQの社内共有

Form 1099-NECの提出期限は毎年1月31日と非常に早く、延長も原則不可であるため、年末から準備するのでは遅すぎます。

今のうちから対象者の洗い出しと社内のフロー確認を行っておくことが、スムーズな年明け対応への第一歩です。

Univis Americaでは、日系企業の米国税務対応を熟知した専門家が、1099-NECの提出要否判断から作成・提出支援、社内体制構築のご相談まで一貫してサポートいたします。

「誰に出せばよいかわからない」「手間をかけずにミスなく提出したい」――そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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監修者

小林 賢介

早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。