米国で新たに報告が義務付けられたBeneficial Ownership Information Report (BOIR)とは
近年、マネーロンダリングやテロ資金供与に対する取り締まりが国際的に強化されている中、各国では企業や法人に対する透明性の向上が求められています。
これに応じて、米国では2021年に企業透明化法(Corporate Transparency Act)を制定し、2024年1月1日に同法を発効しました。
これにより、米国で事業を行う法人は、米国財務省管轄のFinancial Crimes Enforcement Network(以下、FinCEN)にBeneficial Ownership Information Report(以下、BOIR)の提出が義務付けられるようになりました。
この報告書は、企業や法人の実質的な所有者、すなわち実際にその企業をコントロールしている個人の情報を開示するための重要なツールです。
また、特定の基準を満たす全ての法人に対して義務付けられており、その範囲は非常に広範です。
そのため、米国で事業を行う企業や法人は、この規制に対してしっかりと対応する必要があります。
本記事ではこのBOIRの報告対象法人、報告期日、報告内容等に関して詳細に解説していきます。
- 誰が対象?- 報告義務者の範囲とその概要
- 何を報告する?- 報告内容の概要
- いつ報告する?- 報告期日の概要
- どのように報告する?- 報告方法と罰則
- まとめ
誰が対象? – 報告義務者の範囲とその概要
BOIRの提出義務は、米国で設立された多くの法人や外国法人として米国で事業登録された法人などに適用されます。
これは、小規模なスタートアップから外国籍企業まで、幅広い企業が対象となります。
また、新たに設立された法人だけでなく、既存の法人もこの報告義務を負うことになります。
具体的には、主に以下に該当する法人は、原則としてBOIRの報告が必要となります。
- Corporation
- Limited Liability Company (Disregarded LLCも含む)
- Limited Liability Partnership
- Limited Liability Limited Partnership
- Business Trust
- 米国外の法律の下で設立されたが、米国で事業登録されている法人(米国不動産に投資している日本法人の米国支店等も含む)
一方で、特定の法人は、規制や法的な理由に基づき報告義務が免除される場合があります。
上場企業、非営利団体、特定の大規模事業会社などの23種類の例外項目が設けられており、これらは既に厳格に規制されていたり、International Revenue Service(以下、IRS)に法人情報を提供する義務があるため報告が免除されます。
例外の適用はケースバイケースで判断されるため、自社が報告義務の対象かどうかを正確に理解し、必要に応じて専門家の助言を求めることが重要です。
なお、23種類の例外項目は、FinCENが公表しているガイドの「1.2 Is my company exempt from the reporting requirements? 」より確認できます。
何を報告する? – 報告内容の概要
BOIRでは、報告法人(Reporting Company)、実質的所有者(Beneficial Owners)、および会社設立者(Company Applicants)のそれぞれが特定の情報を報告することが求められます。
それぞれが報告すべき内容は以下の通りです。
- 法人名
- 商号(正式な登記・登録の有無を問わず)
- 現在の米国内住所
- 法人が設立された州または管轄地域
- IRS納税者番号(EIN)
- 氏名
- 生年月日
- 現住所
- 有効期限内の写真付き本人確認書類(米国パスポート、州発行の運転免許証、もしくは州や地方政府によって発行されたその他の本人確認書類。これらのいずれも持っていない場合は外国パスポート)
但し、2024年1月1日より以前に設立された法人は、Company Applicantsに関する情報を報告する必要はありません。
なお、Beneficial Owners 及びCompany Applicantsは以下に該当する個人を指します。
以下のいずれかに該当する個人。複数人の個人が該当する場合もあり、報告人数に対する上限は設定されていません。
- 直接、間接を問わず報告法人を実質的に支配する者
- 報告法人のSenior Officer(President、CEO、CFO、COO、General counselなど)、または役職を問わず類似役務を執行する者
- Senior Officerのいずれか、または取締役の大半の選任・解任権限を持つ者
- 報告法人の事業やファイナンス、組織体制に関する重要な意思決定を指揮・判断する者、または意思決定に重大な影響を与える者
- その他報告法人に対して上に記載の方法以外で重大な影響を与える者
- 直接、間接を問わず報告法人の持分(株式、資本、議決権、利益持分等)の25%以上を所有する者
Beneficial Owners の定義に関しては解釈の余地があるため、不明点がある場合は専門家への相談をお勧めします。
以下に該当する個人。最低一人の会社設立者を報告する必要があり、複数人該当する場合においても報告人数は二人までに制限されています。
- (一人目)報告法人を設立又は事業登録するための書類を当局に直接提出した者
- (二人目を報告する場合)上記書類の提出を主に管理・監督し、責任を持つ者
会計事務所や弁護士事務所が設立書類等を登記当局に提出した場合、当該提出者がCompany Applicantとなります。
いつ報告する? – 報告期日の概要
BOIR の提出には、厳格な報告期日が設定されています。
報告期日を守ることは非常に重要であり、これを怠ると罰則が科される可能性があります。
報告義務者は、自社の状況に応じて適切なタイミングで報告を行う必要があります。
設立又は事業登録が行われたタイミングにより、初回の報告期日が異なります。
- 2023年12月末以前に設立又は事業登録された法人:2025年1月1日まで
- 2024年1月1日以降に設立又は事業登録された法人:設立等の手続き完了後90日以内
- 2025年1月1日以降に設立又は事業登録された法人:設立等の手続き完了後30日以内
また、例外項目に該当し報告を免除されていた法人に関しても、例外項目に該当しなくなった場合はその日より30日以内に報告する必要があります。
- 初回報告後、報告内容に変更が生じた場合:変更後30日以内
- 報告した法人情報に不正確な情報が含まれていた場合:その事実が発覚または知るべきであった日より30日以内
どのように報告する? – 報告方法と罰則
一般的に、報告書の提出は電子形式で行われ、FinCENのウェブサイトよりオンラインで提出します。
郵送やFAXでの手続きは受け付けられていません。
提出期限を守ることが非常に重要であり、期限内に提出されない場合、罰則が科される可能性があります。
具体的には、故意に報告書を提出しない、また、故意に虚偽の内容を報告した場合、以下の民事罰及び刑事罰が科される可能性があります。
- 民事罰:最高$500の罰金 × 違反継続日数
- 刑事罰:最高$10,000の罰金 または 最長2年の懲役
上述の通りBOIRの報告の内容自体は複雑なものではないため、不要なリスクや罰則を回避するためにも、適時の報告をきちんと行うことが推奨されます。
まとめ
比較的新しく法人への報告義務が定められたBOIRについて解説いたしました。
多くの米国法人や米国でビジネスを展開する日系企業のみなさまに該当する可能性がございます。
特に初回報告や更新報告のタイミング、またBeneficial Owners やCompany Applicantsの特定などBOIRの概要を理解し、適時適切に対処することが必要です。
Univis AmericaではBOIRの作成およびFinCENへの提出までサポートしております。
ご不明な点やお困りになっていることがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
監修者
小林 賢介
早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。