Amazon販売とSales Tax:Marketplace Facilitator制度とFBAの注意点
1.はじめに
Amazonでの販売は、在庫管理から配送、決済、税金処理に至るまで多くの業務が自動化されており、EC初心者にとっても非常に始めやすい販売チャネルとなっています。
特に「AmazonがSales Taxも自動で処理してくれる」という点に安心感を持っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、Sales Taxに関しては注意が必要です。
確かに多くの州では、Amazonが販売者に代わってSales Taxを徴収・納付する「Marketplace Facilitator制度」が導入されていますが、それですべての義務が免除されるわけではありません。
特に次のようなケースでは、販売者自身が州ごとにSales Taxの登録や申告を行う必要がある場合があります。
- FBA(Fulfillment by Amazon)を利用しており、複数州の倉庫に在庫が保管されている
- 自社ECサイトや他マーケットプレイス(Shopify,Etsyなど)でも併売している
- Marketplace売上に含まれない項目(送料やギフト包装など)を扱っている
このように、Amazon販売であっても州との間に物理的または経済的ネクサスが発生する可能性があり、それに伴ってSales Taxの登録・申告義務が生じることがあるのです。
本コラムでは、Amazon販売におけるSales Tax対応の全体像を整理しながら、
- Marketplace Facilitator制度の仕組みと限界
- FBA利用によるネクサスの発生リスク
- 他チャネルとの組み合わせで注意すべき点
について、実務的な観点から解説していきます。
「Amazonがやってくれているから大丈夫」と思っていた方こそ、ぜひ最後までお読みください。
2.Marketplace Facilitator制度とは

Marketplace Facilitator制度とは、AmazonやeBay、Etsyなどの大手オンラインマーケットプレイスに対して、販売者に代わってSales Taxを徴収・納付する義務を課す制度です。
この制度は、経済的ネクサスの拡大に伴って各州で順次導入され、2024年時点ではSales Taxを課している州のほぼすべて(40州以上)で適用されています。
(1)制度の目的
従来、Sales Taxは各販売者が州ごとに登録・徴収・申告を行う必要がありましたが、小規模事業者が数十の州に対応するのは現実的に困難でした。
そこで州は、多数の販売者を束ねるマーケットプレイス事業者(=Marketplace Facilitator)に徴収・納付の責任を集中させることで、Sales Taxの徴収漏れを防ぐという制度を整備しました。
(2)Amazonにおける適用例
Marketplace Facilitator制度のもとでは、Amazonを通じた販売について、Amazonが自動的にSales Taxを徴収し、各州に納付するため、販売者自身が税率計算や納税手続を行う必要は基本的にありません。
- 税率設定:Amazonが購入者の住所に応じて自動計算
- 徴収処理:購入時にSales Taxを加算し徴収
- 納税処理:Amazonが各州へ納付
- 領収書表示:販売者ではなくAmazonが徴収主体として表示される
(3)制度の適用範囲と限界
重要なのは、この制度が「Amazon上での取引」に限定されているという点です。
| 対象となる販売 | Marketplace Facilitator制度が適用されるか? |
| Amazon上の通常販売 | 適用される(Amazonが対応) |
| 自社ECサイト(Shopifyなど)での販売 | 適用外(販売者が対応) |
| Amazon以外のマーケットプレイスでの販売 | 州により異なる(eBay,Walmartは対象が多い) |
| ギフト包装料や送料など追加オプション | 州により扱いが異なる。販売者が責任を負うことも |
また、Amazon経由の売上であっても、一部の州では「登録義務だけは残る」、または「申告義務を免除しない」としている州もあり、“Amazon任せ”では不十分なケースがある点にも注意が必要です。
3.Amazonがやってくれること・やってくれないこと

Marketplace Facilitator制度により、Amazonは販売者に代わって多くのSales Tax関連業務を処理してくれますが、すべてを完全に任せてよいわけではありません。
このセクションでは、Amazonが対応してくれる範囲と、販売者自身が対応すべき業務を明確に区分してお伝えします。
(1)Amazonが対応してくれること(通常のAmazon販売に限る)
| 項目 | 説明 |
| Sales Taxの自動計算 | 顧客の住所に基づき、該当州・郡・市の税率を自動適用 |
| Sales Taxの徴収 | 商品代金とともにSales Taxを加算・徴収 |
| Sales Taxの納付 | 各州に対してAmazonが直接納付(販売者を代表して) |
| 売上明細での分離表示 | 顧客のレシート・販売者の管理画面でSales Taxが分離表示される |
| 多くの州での申告義務の免除 | 州によっては、販売者に対するSales Taxの申告義務も免除される(例:カリフォルニア、テキサスなど) |
(2)Amazonが対応してくれないこと(販売者の責任)
| 項目 | 説明 |
| Sales Tax Permitの取得(登録) | 州によっては、Marketplace売上があっても登録義務が残る(例:カリフォルニア) |
| ゼロ申告の提出 | 登録済み州で売上がなくても定期申告が必要な場合がある(Amazon売上のみでも) |
| FBAによる物理的ネクサスへの対応 | Amazon倉庫に在庫がある場合、該当州において登録義務が生じることがある |
| Amazon以外での販売 | 自社ECサイトや他マーケットプレイスでの販売は、Amazonの対象外(自力でSales Tax対応が必要) |
| 売上レポートの管理・分析 | 州別売上や納税状況の確認、帳簿への反映などは販売者の責任 |
例えば、ニューヨーク州やカリフォルニア州では、AmazonがSales Taxを徴収・納付していても、販売者にSales Tax Permitの登録やゼロ申告義務がある場合があります。
こうした州の制度差は頻繁に変更されるため、常に最新情報をチェックする体制が重要です。
「Amazonがやってくれること」は、基本的に“Amazon上の販売”に限られます。
FBAや他チャネルの販売がある場合は、次のセクションで解説する「FBAによる物理的ネクサスの発生」にも注意が必要です。
4.FBAによる物理的ネクサスの発生リスク

Amazon販売において最も見落とされやすいSales Taxリスクが、FBA(Fulfillment by Amazon)による物理的ネクサスの発生です。
FBAを利用している場合、販売者の意思とは関係なく、Amazonが商品を全米各地の倉庫に自動的に移動・保管します。
これにより、保管されている州に対して物理的ネクサス(Physical Nexus)が発生したと見なされる可能性が高くなります。
(1)物理的ネクサスとは?
従来からのネクサス判定の基本となっていたのが「物理的な拠点の有無」です。
例えば、次のようなケースは物理的ネクサスがあると見なされます。
- 従業員が州内にいる
- 倉庫やオフィスがある
- 販売用の資産(在庫など)を州内に持っている←FBAが該当!
(2)FBAを利用しているとどうなるか?
FBAでは、販売者の在庫が以下のような形でAmazonの判断により複数州へ自動分散されます。
- フルフィルメントセンター(FC)に納品された在庫が、他州のFCに再配分される
- 保管先の州は販売者の管理画面でも確認可能(Inventory Event Detail Reportなど)
このようにして在庫が保管されている場合、その州に対して販売者がSales Tax Permitを取得すべき対象とされることがあります。
(3)よくある誤解
「在庫はAmazonに預けているんだから、自分のものじゃないのでは?」→誤りです。
Sales Taxの観点では、販売者の名義でAmazonに委託しているだけの在庫も「販売者の資産」として扱われます。
したがって、保管されている州には物理的ネクサスがあると判断されるのが一般的です。
(4)実務上の対応ポイント
- Inventory Event Detail Reportを確認し、どの州に在庫が存在したかを把握
- 在庫保管実績のある州については、Sales Tax登録の検討が必要
- 州によっては、Marketplace Facilitator制度があっても登録やゼロ申告義務が残る
(5)まとめ
FBAを使ってAmazon販売をしている場合、
- AmazonがSales Taxを徴収・納付してくれるのは一部に限られる
- 在庫保管により、思わぬ州にSales Tax義務が発生している可能性がある
という点を常に意識し、販売管理レポートから定期的に在庫移動履歴を確認する体制づくりが求められます。
5.他チャネルとの組み合わせによる注意点

Amazonをメインの販売チャネルとしながらも、Shopifyや自社ECサイト、Etsy、Walmartなど他のチャネルを併用している事業者も多く見られます。
このようなケースでは、Sales Taxの管理がより複雑化し、Amazon任せでは対応しきれない領域が増えるため、注意が必要です
(1)チャネルごとにSales Taxの義務が異なる
Marketplace Facilitator制度が適用されるのは、各マーケットプレイス内での販売のみです。
| 販売チャネル | Sales Taxの対応主体 |
| Amazon.com(通常販売) | Amazon(販売者に代わって処理) |
| Etsy,eBay,Walmart(MPF対象州) | 各プラットフォーム(基本的に処理) |
| Shopifyや自社ECサイト | 販売者自身がすべて対応(登録・徴収・納付) |
そのため、Amazon以外のチャネルで発生した売上については、すべて販売者が直接Sales Taxの対応を行う必要があります。
(2)州によっては申告時に「Amazon売上を含める」必要も
一部の州(例:カリフォルニア、ニューヨークなど)では、たとえSales Tax自体はAmazonが納付していたとしても、登録済みの販売者がAmazon売上も含めて申告する義務が課されている場合があります。
この場合の申告書では、
- 自社チャネルの売上→自分でSales Taxを計算・納付
- Amazon売上→Amazonが納付済であることを示す形で申告上「除外」扱い
という処理をする必要があり、売上のチャネルごとの区分管理が不可欠になります。
- 「Amazonが全部やってくれてる」と思っていて、Shopify売上が未申告状態になっていた
- Amazon経由の売上も含めて申告が必要な州にゼロ申告しかしておらず、後から指摘された
- 各チャネルのSales Tax管理を一本化しておらず、税率適用の漏れや計算ミスが発生
(3)管理をシンプルにするための工夫
- 自社ECとShopifyを使う場合は、TaxJar、Avalara、SovosなどのSales Tax自動化ツールの導入を検討
- Amazonや他マーケットプレイスと売上・税額データを分けて管理する仕組みを整える
- 州別・チャネル別の売上レポートを月次で集計する習慣をつける
チャネルが増えるほど、Sales Tax管理のリスクも増加します。
次のセクションでは、こうした実務の中で実際に起こった誤解や申告漏れによるトラブル事例を紹介し、対策のヒントを整理します。
6.よくある誤解とトラブル事例

Amazonを使っていると、「Sales Taxは自動的に処理されるから自分では何もしなくてよい」と思いがちです。
しかし、制度の仕組みや販売チャネルの組み合わせに関する理解不足が、思わぬトラブルや追徴課税につながるケースが少なくありません。
このセクションでは、実際によくある誤解と、それに起因するトラブル事例をご紹介します。
誤解①:「AmazonがSales Taxを処理してくれているから、何もしなくていい」
実際には、Amazonでの販売に限っては処理してくれますが、Sales Tax登録や一部州での申告義務が残るケースもあります。
事例:
カリフォルニア州ではAmazon販売でSales Taxを徴収・納付していても、登録済み販売者には申告義務が残るとされています。
このルールを見落としていたため、数年間未申告状態が続き、延滞利息・罰金の通知を受けたという例があります。
誤解②:「FBAはAmazonの倉庫だから、自分の物理的拠点にはならない」
実際には、FBA在庫は「販売者の資産」であるため、保管されている州には物理的ネクサスがあると見なされるのが一般的です。
事例:
ニュージャージーやテキサスなど複数州に在庫が自動的に分配されていたにもかかわらず、Sales Taxの登録をしていなかった。
AmazonのInventory Reportを提出させられ、過去分を遡って納税・登録するよう指導された。
誤解③:「自社ECの売上は少ないから、申告しなくても問題ない」
実際には、一部の州では、販売件数のみで経済的ネクサスが成立することがあります(例:年間200件以上の取引)。
事例:
Shopifyで1件あたり$15程度の小規模販売をしていたが、年間取引件数が300件を超えていたため、ネクサスが発生。
Sales Tax未登録が発覚し、過去の売上について州から納税を求められた。
誤解④:「AmazonもShopifyもあるけど、全部まとめてAmazonがやってくれている」
実際には、Amazon以外のチャネル(Shopify、自社EC)はMarketplace Facilitator制度の対象外。
その売上については、販売者自身でSales Taxを徴収・申告・納付する必要があります。
事例:
Shopifyでの売上が年間$50,000を超えていたが、すべてAmazon任せだと思い込んで未対応。
監査の結果、Shopify売上に対する税務対応漏れが見つかり、罰金と利息を含めて多額の納付を求められた。
- 「Amazonがやってくれる」=「完全に任せていい」ではない
- 州ごとの登録・申告要否を一度棚卸しするだけでも大きなリスク回避につながる
- チャネルの数が増えるほどSales Tax管理は複雑になるため、記録管理と自動化ツールの活用が鍵
7.まとめ
Amazonを活用したEC販売は、販売者にとって多くの手間を軽減してくれる非常に優れたプラットフォームですが、Sales Taxについては“完全自動”ではないことを理解しておく必要があります。
Marketplace Facilitator制度の導入により、Amazonが多くのSales Tax関連業務を肩代わりしてくれるようになったとはいえ、以下のような場面では販売者自身が対応しなければならない局面が多く残されています。
- FBA利用に伴い複数州に在庫が保管されている場合(物理的ネクサスの発生)
- カリフォルニアなど一部の州で申告義務が残る場合
- Shopify、自社ECなど他チャネルでの販売がある場合
- Amazon売上も含めて登録・申告が求められる州への対応
まずは以下を確認することが重要です。
- FBAを通じてどの州に在庫が移動・保管されたか
- 各州への売上実績(Amazonおよび他チャネルを合算)
- それぞれの州のSales Tax登録・申告義務の有無
これらを明確にしたうえで、対応すべき州を絞り込み、登録・申告手続きを優先順位をつけて進めていくことがリスク管理の基本です。
また、販売チャネルが複数にわたる場合は、Sales Taxの自動化ツール(例:TaxJar,Avalara,Sovosなど)の導入も検討しましょう。
手作業での申告や帳簿管理には限界があり、人的ミスや州ごとの要件見落としによるトラブルのリスクを高めてしまいます。
Univis Americaでは、次のようなSales Tax関連業務をトータルでサポートしております。
- FBA倉庫データや売上レポートの分析支援
- 州ごとのネクサス判定と登録要否の判断
- 各州へのSales Tax登録手続き代行
- 自動化ツールの導入支援・設定サポート
- 定期的な申告・納税業務のアウトソーシング
「どの州に対応すべきか分からない」「過去の申告漏れが不安」という方も、お気軽にご相談ください。
監修者
小林 賢介
早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。