Corporate Tax

ホリデーシーズンに向けた従業員ギフトの税務ガイド 

1. はじめに:ホリデーギフトにも税務がついてくる

アメリカでビジネスを行う企業様にとって、ホリデーシーズンは、従業員に感謝の気持ちを伝える絶好のタイミングです。しかし、「会社従業員」への贈り物は、アメリカの税務では「単なる贈り物」とは扱われません。企業が善意で提供したつもりでも、税務上は「給与」とみなされ、会社・従業員双方に税務負担が発生することがあります。 

本コラムでは、ギフトカード・商品券・物品などを従業員へ贈る際の従業員側及び会社側における税務上の注意点を整理し、ホリデーギフトを企画する際に役立つポイントをまとめ読者の皆様が安心して贈ったり、受け取ったりできるようになることを目的としています。 

2. 従業員が受け取るギフトの課税関係

(1) 一般原則

通常、個人間の贈与は所得税の対象にはなりません。しかし、雇用主から従業員への贈与は税法上「給与」と見なされるため、課税所得に含めることが原則です(IRC §102(c))。
そのため、たとえ「感謝の気持ち」を込めたギフトであっても、換金性の高いものは給与課税の対象となります。 

(2) 非課税となり得る「デ・ミニミス・フリンジ」 

IRS は、以下の要件を満たす場合に限り、例外的に非課税扱いを認めています。 

デ・ミニミス(僅少)フリンジの条件

価格が少額である
・提供頻度が低い(年1回程度)
・会計処理・記録管理が実務的に困難なほど少額
・換金性がない(※ここが重要)
原則課税されるものの例

・ギフトカード
・商品券
・プリペイドカード
理由:現金等価物であり、価値が明確で換金性が高いため
非課税になり得るものの例

・ホリデー用ハム・ターキー等の食品
・少額のギフトバスケット
・ロゴ入りグッズ など

(3)「従業員表彰制度」に関する特例 

勤続表彰・安全表彰など、一定の要件を満たす正式な表彰制度に基づく贈答品については、非課税枠が認められるケースがあります。 

非課税となる可能性のある表彰ギフト要件例

・有形個人財産(時計・トロフィーなど)である
・現金・商品券・ポイントなど換金性のあるものではない
・一定条件を満たすプログラムに基づくこと
・非課税枠内であること(2025年時点における年間限度額は設計プランに応じて1,600ドル or 400ドル) 

(4) 従業員側の実務的な注意点 

課税対象ギフトを受け取った場合、会社は次の処理を行います。 

  • W-2 にギフト価額を給与として記載
  • 所得税・FICA(社会保障・メディケア税)の源泉徴収 

従業員としては、自分が受け取ったギフトが課税対象かどうかを事前に把握しておくことが重要です。 

3. 会社側の税務上の取扱いと実務ポイント

(1) 経費計上の考え方 

従業員向けの贈答は通常、企業の福利厚生として経費計上が認められます。ただし、ギフトの性質によっては「給与」とみなされるため、社会保険料や源泉徴収が発生します。 

(2) 給与扱いとなる場合の源泉義務 

換金性の高いギフト(ギフトカード等)は原則課税対象となり、企業は以下を行わなければなりません。 

  • 価額の算定 
  • 給与所得としての計上 
  • 源泉徴収処理 
  • 年末 W-2 に反映 

(3) 税務リスクを避けるためのベストプラクティス 

  • ギフトは非換金性・有形品・少額・年1に収める 
  • ギフトカードを使う場合は、最初から給与扱いと想定して処理する 
  • 表彰制度を活用する場合は、非課税要件を満たすようプログラム化 
  • ギフト内容・金額・頻度・税務処理の社内ルールを文書化する 
  • 社内に「ギフトの税務FAQ」を用意して周知徹底する 

(4) 「贈与税」との違い 

雇用主従業員の贈答は、一般の贈与税の対象ではありません。
従業員向けギフトは「給与課税の有無」が論点であり、贈与税は原則関係しません。 

4. 事例で理解する従業員ギフトの扱い

ケースA:50ドルのギフトカードを全社員へ配布

内容:Amazonギフトカード50ドル

対象:全従業員

頻度:年1回


結果:課税対象(給与扱い)

理由:
ギフトカードは換金性があるため、デ・ミニミスの例外は適用されない。
会社側はW-2に金額を含め、源泉徴収が必要。

ケースB:ホリデー用のターキーを配布

内容:ターキー(30ドル相当)

対象:全従業員

頻度:年1回


結果:非課税扱いの可能性が高い

理由:
・非換金性
・少額
・年1回
→ デ・ミニミスに該当しやすい。

ケースC:勤続10年の表彰で記念品を贈呈

内容:時計(200ドル)

対象:勤続10年の社員

背景:会社の表彰プログラムに基づく


結果:非課税扱いの可能性が高い

理由:
・表彰制度に基づいている
・ギフトカードではない
・有形財産かつ非課税枠内

5. ホリデーギフト企画のチェックリスト

♦ 贈る前に確認したい5つのポイント

☑ 換金性はある?(ギフトカードは原則課税) 

☑ 価値は少額? 

☑ 年1回程度か?(頻度が高いと非課税扱い不可) 

☑ 目的は何か?(表彰なら別ルール) 

☑ 会計処理・源泉対応の準備は?

♦ ギフト設計のおすすめパターン

A:非課税狙いの伝統的ホリデーギフト
食品・小額ギフトバスケット・ロゴ入りグッズ 

B:ギフトカードの場合
課税前提で給与処理する 

C:表彰制度を活用
有形記念品なら非課税の可能性あり 

6. まとめ:心のこもったギフトを“安全に”届けるために

ホリデーギフトは、従業員に感謝を示し、企業文化を育てる絶好の機会です。しかしアメリカでは、贈り物の種類によっては従業員に予期せぬ税負担が生じる可能性があり、企業側にも源泉徴収などの実務負担が発生します。 

押さえるべきポイントは次の通りです。 

ギフトカードはほぼ確実に課税対象

非課税の可能性があるのは「少額・非換金・頻度低」の有形品

表彰制度には別の税務優遇がある

会社は源泉徴収義務や W-2 記載義務を負う場合がある

ホリデーギフトが「嬉しいサプライズ」だけで終わるよう、内容選定から税務処理まで計画的に行うことが大切です。

Univis Americaは、皆様のビジネス運営を税務・会計の観点から全力でサポートいたします。
もしご不安な点や制度見直しをご検討されている場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

それでは、皆さま、素敵なホリデーシーズンをお過ごしください。
 

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監修者

吉野 真貴

早稲田大学商学部を卒業後、有限責任あずさ監査法人の金融部門に入所。2017年よりKPMG Dublinに駐在し、航空機リース会社を中心に監査・税務・アドバイザリー業務に従事。2021年よりUnivis America LLCに参画し、新規ビジネス開拓を担当。