Corporate Tax

EC販売とSales Tax:オンライン販売でも州ごとの登録が必要?

1.はじめに

オンラインで商品を販売している方の中には、「自社は店舗も倉庫もないからSales Taxは関係ない」と考えている方が少なくありません。

しかし、2018年の米国連邦最高裁判所による「South Dakota v. Wayfair」判決以降、この認識は大きく変わりました。

現在では、物理的にその州に拠点がなくても、売上金額や取引件数が一定の基準を超えるとSales Taxの登録義務が発生する(=経済的ネクサス)というルールが、全米ほぼすべてのSales Tax課税州に広がっています。

つまり、Shopify、BASE、Etsy、WooCommerce、独自の自社サイトなど、どのプラットフォームを使っていたとしても、米国内に向けて販売している以上、ある時点でSales Tax対応を避けて通ることはできません。

本コラムでは、こうしたEC販売におけるSales Tax対応について、

  • 経済的ネクサスの考え方と基準
  • 州ごとの登録義務の違い
  • マルチステート対応の実務負担
  • 自動化ツールを活用した効率的な対応方法

など、オンライン販売に特有の課題とその解決策をわかりやすく解説していきます。

「気づかないうちに義務が発生していた」「後から多額の罰金を請求された」といった事態を避けるためにも、早めに全体像を把握しておくことが大切です。

2.経済的ネクサスとは?(Wayfair判決の影響)

2018年、米国連邦最高裁判所は「South Dakota v. Wayfair, Inc.」という画期的な判決を下しました。

この判決により、それまで「物理的な拠点がある州にのみSales Taxの義務が生じる」とされていた従来の枠組みが覆され、たとえ州内に拠点がなくても、一定の売上や取引件数があればSales Taxの登録義務が発生するという新たなルールが全米に広がることとなりました。

この考え方は「経済的ネクサス(Economic Nexus)」と呼ばれ、今ではほぼすべてのSales Tax課税州がこの制度を導入しています。

(1)物理的ネクサスvs経済的ネクサス

区分 条件 主な例
物理的ネクサス 州内に物理的プレゼンスがある 倉庫、店舗、従業員、展示会など
経済的ネクサス 州内に一定の経済活動(売上・取引件数)がある 年間売上が$100,000を超える、または取引数が200件を超える など

つまり、「オンライン販売でも、売れている州には登録義務がある」というのが現行の原則です。

(2)Wayfair判決の背景と影響

この判決は、従来の物理的ネクサスルールでは州の税収が守れなくなったことが背景にあります。

AmazonやShopifyなどを通じて他州から大量の商品が販売されるようになったにもかかわらず、販売者に物理的プレゼンスがなければSales Taxを徴収できないという旧制度では、州が税収を失う構造が放置されていたのです。

Wayfair判決以降、各州は次々に「経済的ネクサス法」を導入し、オンライン販売者に対して州ごとのSales Tax登録・徴収・申告義務を課すようになりました。

(3)EC事業者にとっての影響とは?

経済的ネクサスが与えるEC事業者への実務的影響

  • 自社ECサイトでも、一定の売上または取引件数を超えると、州ごとにSales Tax登録が必要
  • 1州にとどまらず、複数州にネクサスが同時に発生する可能性がある
  • 登録だけでなく、申告・納税・記録保存などの管理負担が発生する

このように、物理的に州内に存在しなくても「売れている」という事実だけでSales Taxの義務が発生するのが現在のルールです。

3.州ごとの閾値と登録義務の発生例

Wayfair判決以降、米国各州はそれぞれに経済的ネクサス(Economic Nexus)の発生基準=登録義務が生じる売上または取引件数の閾値を定めています。

この基準を超えると、その州でSales Taxの登録・徴収・申告義務が発生します。

ほとんどの州が、以下のいずれかの条件を基準としています。

Sales Tax登録が必要となる代表的な閾値

  • 年間売上が$100,000を超える
  • または、年間取引件数が200件を超える

ただし、州によって金額基準が異なったり、件数条件がない州もあるため注意が必要です。

(1)主な州の経済的ネクサス基準一覧(2025年時点)

州名(例) 売上基準(年間) 件数基準 備考
カリフォルニア州 $500,000 なし 比較的高めの基準。件数は不問。
ニューヨーク州 $500,000 100件 両方満たす場合にネクサス発生。
テキサス州 $500,000 なし 金額基準のみ適用。
フロリダ州 $100,000 なし Wayfair以降導入。件数要件なし。
ペンシルベニア州 $100,000 なし 金額基準のみ適用。
ワシントン州 $100,000 なし 登録・申告が厳格。
イリノイ州 $100,000 200件 いずれかを超えると義務発生。

注意:州によっては「売上は課税対象売上に限る」など細かい定義があるため、申告前に確認が必要です。

(2)件数基準による落とし穴に注意

たとえ売上金額が少額でも、「200件」という件数を超えるとネクサスが発生する州があります。

特に単価が低く、ECで多数の個人顧客に販売している事業者(例:ハンドメイド雑貨、食品等)では、知らない間に複数州で件数基準を超えていたというケースが少なくありません。

(3)ネクサスが発生したらすぐに登録を

州によっては、基準を超えた月またはその翌月の初日からSales Tax登録義務が生じると定めています。

つまり、気づいたタイミングで既に義務発生済み=遅延状態になっている可能性もあるため、定期的に売上データと取引件数をモニタリングしておく必要があります。

このように、経済的ネクサスは州ごとにルールが異なるうえ、売上だけでなく件数も見なければならないため、自社で管理するには限界がある場面も多くなってきます。

4.複数州への登録と申告の実務的負担

経済的ネクサスの基準を満たす州が複数ある場合、それぞれの州でSales Taxの登録、税率の設定、申告・納税を個別に行う必要があります。

この「マルチステート対応」は、特に中小規模のEC事業者にとって大きな負担となるのが現実です。

(1)州ごとに異なる制度設計

Sales Taxは連邦制度ではなく、各州が独自に運用しているため、登録方法・税率・申告書式・頻度・納付方法などすべてが異なります。

項目 州による違いの例
税率 例:カリフォルニア州7.25%、フロリダ州6%、ニューヨーク州4%など。
市・郡によってさらに加算あり。
申告頻度 月次/四半期/年次(州が指定)
登録形式 オンライン申請/紙申請/EIN必須など
納付方法 ACH引落、クレジットカード、チェック送付など多様

その結果、10州以上にネクサスがある場合には10通りの手続きを並行して管理しなければならず、人的・時間的コストが急増します。

(2)負担がかかる主な業務

EC事業者が直面するSales Tax対応の実務負担

  • 州ごとのSales Tax Permitの取得と更新管理
  • 各州の税率設定と自社サイト・カートシステムとの連携
  • 月末・四半期末に複数州へ個別の申告処理(e-filing)
  • 州ごとの納付期限・納付方法に応じた資金移動と記録
  • ゼロ申告の忘れ防止、延滞・過納のモニタリング
  • 各州の通知や制度変更への対応(しばしば予告なく変更)

(3)事業の成長とともに「税務が足かせ」になるリスクも

オンライン販売の広がりによって売上が増えても、Sales Taxの管理業務が追いつかないと、以下のような問題が発生します。

売上増加とともに高まる税務リスク

  • 登録漏れによるペナルティ・過去分徴収命令
  • 過少申告による監査リスク
  • 内部工数のひっ迫による他業務への悪影響
  • 顧客への誤請求(過徴収/未徴収)による信頼低下

こうしたリスクを回避するためには、Sales Tax業務の自動化と一元管理が現実的な解決策となります。

5.自動化ツールの活用(Avalara, TaxJar, Shopify Taxなど)

マルチステートでのSales Tax対応が必要になると、人手だけで対応するのは現実的ではありません。

そこで登場するのが、Sales Tax管理の自動化ツールです。

これらのツールを使うことで、州ごとの税率設定から、徴収・申告・納税までを効率的に管理することが可能になります。

(1)主なツールの比較

ツール名 特徴 向いているユーザー
Avalara 大規模・複雑な販売事業向け。
自動計算・申告・納税まで対応。
ERP連携も可能。
年商が大きく、複数チャネルに販売している企業。
TaxJar(Stripe Tax) 中小規模ECに人気。
主要プラットフォームと簡単に連携可能。
自動レポート出力あり。
Shopify、WooCommerce、Amazonなどを使う事業者。
Shopify Tax Shopify公式の税率計算機能。
Sales Taxの自動適用に特化(申告・納税機能はなし)。
Shopifyで完結したビジネスモデルの小規模販売者。
Quaderno グローバル税務対応。
US Sales Taxに加え、EU VATにも対応。
海外販売も行うEC事業者。

(2)自動化でできること(一例)

Sales Tax業務における自動化ツールの活用例

  • 顧客の住所情報に基づき自動で正しい税率を適用(市・郡を含む)
  • Sales Taxの徴収・計算をカート画面で自動反映
  • 州ごとの売上・税額をダッシュボードで一元管理
  • 州別・期間別の申告レポートを自動生成
  • 一部ツールでは電子申告や納税まで対応可能

(3)導入のポイントと注意点

Sales Tax自動化ツール導入時の留意点と選定基準

  • 自社の販売チャネルやボリュームに応じたツール選定が重要
    →ShopifyだけならShopify Taxでも十分、Amazon+ECならTaxJarやAvalaraが有効
  • 自動化といっても、初期設定(ネクサス登録、税区分設定など)は必須
  • 州によっては自動申告ができない/対応していない州もあるため、申告状況のモニタリングは継続必要

Sales Taxの義務が州ごとに拡大している今、ツールを使った対応はもはや選択肢ではなく「事業継続の前提条件」といっても過言ではありません。

6.登録・申告の実務フロー

EC販売で経済的ネクサスが発生した州では、その州の税務当局にSales Tax Permit(販売許可)の登録を行い、以降は定期的に申告・納税を行う必要があります。

このセクションでは、ツールを導入するか否かに関わらず必要となる、基本的な実務フローを整理します。

ステップ1:ネクサスの確認

まずは、自社がどの州で登録義務を負っているか=ネクサスの有無を確認します。

ネクサスの有無を把握するための初期ステップ

  • 年間売上と取引件数を各州ごとに集計
  • 経済的ネクサスの基準(例:$100,000または200件)と照らし合わせる
  • ネクサスが発生している州のリストを作成

※自動化ツール(TaxJarなど)にはネクサス判定機能が含まれているものもあります。

ステップ2:州への登録(Sales Tax Permitの取得)

ネクサスがある州では、州の税務当局ウェブサイトからSeller’s Permit(またはSales Tax License)を申請します。

Seller’s Permit申請時に求められる主な登録内容

  • 事業者情報(法人名・代表者名・住所)
  • EIN(連邦雇用者番号)またはSSN
  • 商品の種類、販売プラットフォーム、販売形態(EC販売など)
  • 想定売上高や販売開始日

申請はオンラインで完結する州が多く、数日〜1週間程度で許可証が発行されます。

ステップ3:税率の設定と販売チャネルとの連携

Permit取得後は、顧客の住所に応じて正しい税率を計算・徴収できるよう、販売サイト(Shopify等)に設定を行います。

正確なSales Tax計算のための設定手順

  • 州・郡・市レベルまで反映される税率の適用
  • 商品ごとの課税区分(例:食品、衣料、ダウンロード商品など)
  • 自動化ツールと販売チャネルとのAPI連携設定

ステップ4:定期申告と納税

登録後は、州から指定された頻度(月次・四半期・年次)でSales Taxの申告が必要になります。

定期申告時に求められる主な入力項目

  • 対象期間中の売上総額
  • 課税対象売上/非課税売上の内訳
  • 州・郡・市ごとのSales Tax額
  • 納付すべき税額

申告方法は各州のe-filingポータルを使うのが一般的です。

ロ売上であっても、ゼロ申告が求められる場合が多いため、スケジュール管理が非常に重要です。

ステップ5:アカウントの解約または変更(必要な場合)

州での販売をやめた、あるいはネクサスが消滅した場合は、Permitの閉鎖(close account)申請が必要です。

そのまま放置すると申告義務が継続してしまい、未申告扱いになるリスクがあります。

このように、Sales Tax対応は「登録して終わり」ではなく、継続的な管理と実務フローの整備が不可欠です。

7.よくある誤解とトラブル事例

EC販売におけるSales Tax対応では、制度が複雑であるがゆえに誤解や対応漏れが起こりやすく、後から大きなトラブルに発展するケースも少なくありません。

このセクションでは、実際によく見られる誤解とその結果生じたトラブル事例をご紹介します。

誤解①:「オンライン販売だからSales Taxは関係ない」

経済的ネクサスにより、オンライン販売でも州ごとに登録・申告義務が生じます。

物理的拠点がないことを理由に「登録不要」と判断してしまうと、州税務当局からの後日の追徴課税やペナルティの対象となるリスクがあります。

実例:
アクセサリーをオンライン販売していた個人事業主が、複数州で200件以上の取引を超えていたにもかかわらず、未登録・未申告の状態を3年放置。調査の結果、過去3年分の税額+延滞利息+罰金で合計$20,000超の納付を求められた。

誤解②:「AmazonやShopifyが全部やってくれている」

マーケットプレイス経由の販売にはSales Taxが自動で対応されることがありますが、自社ECサイトの売上や他チャネルの販売は対象外です。

特にShopifyでは、Shopify Taxが税率の計算には対応していても、申告・納税は販売者自身が行う必要があります。

実例:
Shopifyを使ってオンライン販売していたが、Shopify Taxによって「税は勝手に処理されている」と思い込んで放置。
税金が徴収されているのに申告・納税していなかったため、州から罰金通知を受けた。

誤解③:「売上が少ないから問題ない」

件数基準によっては、年間の売上が少額でもネクサスが発生します。

例:
イリノイ州やニューヨーク州では「年間100件~200件」の販売で義務が発生するケースがあります。

実例:
雑貨をハンドメイド販売していた個人事業主が、1件あたり$10〜$20の売上で年間売上は$5,000未満だったが、年間取引件数が250件を超えており、3州で申告漏れが発覚。
未納税額以上に利息と罰金が膨らんだ。

誤解④:「登録はしたけど売上がないから申告しなくてよい」

Sales Taxの登録をした場合、売上がゼロであっても多くの州でゼロ申告(no sales return)が必要です。

申告を怠ると、自動的に延滞扱いとなり、罰金や口座停止の対象になります。

教訓

  • 「知らなかった」「うっかり」は免責されません
  • 誤解の多くは「登録・申告・納税の責任範囲」を明確に理解していないことが原因
  • 早期の体制構築と、自社の販売チャネル・取引件数・税務状況を定期的に確認する仕組みが重要

8.まとめ

EC販売において、Sales Taxの対応は避けて通れない法的義務です。

物理的に店舗や拠点がなくても、売上や取引件数が一定の基準を超えれば、各州でSales Taxの登録・申告・納税義務が発生します。

これは、2018年のWayfair判決以降、ほぼ全米に広がった「経済的ネクサス」に基づく制度であり、「オンライン販売だから関係ない」という考えはもはや通用しません。

本コラムでは、以下のポイントを解説してきました。

本コラムで解説したSales Tax対応の要点

  • 経済的ネクサスとは何か、そしてなぜオンライン販売者にも義務が発生するのか
  • 州ごとに異なるネクサスの基準(売上/件数)とその一覧
  • マルチステート対応による実務負担と、その効率化手段としての自動化ツール
  • Sales Tax登録〜申告〜納税までの基本フロー
  • よくある誤解と実際のトラブル事例

「税金の問題は売上が出てから考えよう」では手遅れになることもあります。

特にECは広範な州に一気に売上が広がる可能性があるため、ネクサスの発生状況を定期的にモニタリングし、必要に応じて登録・申告を進めておくことがリスク管理の基本です。

次回のコラムでは、「Amazon販売とSales Tax」をテーマに、マーケットプレイスファシリテーター制度(Marketplace Facilitator Rules)の仕組みと、FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)による物理的ネクサスの発生リスクなど、Amazon販売特有のSales Tax対応について詳しく解説します。

Univis Americaが提供するSales Tax支援の概要

  • 経済的ネクサス判定
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など、EC販売を展開する日本企業様・個人事業者様を総合的にサポートしております。

「何から始めればよいか分からない」と感じたら、ぜひお気軽にご相談ください。

 

監修者

小林 賢介

早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。