展示会・ポップアップ販売とSales Tax:短期出展でも必要な登録とは?
1.はじめに
「展示会やポップアップのような短期イベントでの販売なら、税金のことはあまり気にしなくてもいいのでは?」
こうした誤解をお持ちの方は少なくありません。
しかし実際には、たとえ1日限りの出展であっても、販売を行う州においてSales Tax(売上税)の登録・申告義務が発生する可能性があるのです。
米国のSales Tax制度は、連邦ではなく各州が独自に運用しているため、販売する「場所」と「方法」によって、求められる対応がまったく異なります。
展示会やマーケットイベントは、通常の店舗販売やEC販売とは異なる一時的な形態ですが、州から見れば「その州で販売活動を行っている」という事実には変わりありません。
特に近年は、Sales Taxの取締りが厳格化されており、イベント主催者に対しても出展者のPermit(販売許可)の確認義務や報告義務が課されるケースが増えています。
これにより、Sales Taxに関するコンプライアンスが強く意識されるようになってきました。
本コラムでは、展示会・ポップアップなどの一時的な対面販売を行う際に必要となるSales Tax対応について、登録方法から申告の注意点まで具体的に解説します。
これから米国でのイベント出展を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
2.イベント販売でもネクサスが発生する

Sales Taxに関する義務は、「その州にネクサス(nexus)があるかどうか」で判断されます。
ネクサスとは、その州において事業活動を行っていると見なされる状態のことで、これが認定されるとSales Taxの登録・徴収・納税義務が発生します。
(1)展示会・ポップアップ=物理的ネクサスの典型例
展示会やフェスティバル、ポップアップストアなど、短期間であっても物理的に州内で販売活動を行えば、原則としてその州に物理的ネクサスが発生します。
これは次のような活動が該当します。
- 州内の展示会やマーケットでの対面販売
- 州内のイベントスペースを一時的に借りて行う販売
- 営業スタッフを派遣して現地で契約や受注を行う
このように、出展や営業といった一時的なプレゼンスであっても、「その州で販売活動をしている」と見なされるため、Sales Taxの義務が発生するのです。
(2)物理的ネクサスの認定は州ごとに基準あり
多くの州では、展示会やイベント出展が1回だけでもネクサスと見なされるケースが多く、事前にSales Tax Permitを取得する必要があります。
一方で、一部の州では「年に数日以内の出展のみであれば、登録不要」とする免除規定を設けている場合もありますが、適用条件は限定的であり、出展するイベントの種類・期間・販売内容などによって扱いが変わるため、注意が必要です。
(3)無登録で販売した場合のリスク
ネクサスが発生しているにもかかわらずSales Taxの登録をせずに販売を行った場合、次のようなリスクがあります。
- 州からの調査や過去分のSales Tax納税命令(遡及課税)
- 延滞金や罰金の請求
- 主催者への連絡・出展停止措置
展示会や短期イベントであっても、「出展する=その州で事業をしている」という理解をもって、事前の対応を進めることが重要です。
3.Temporary Seller’s Permitとは

展示会やポップアップイベントのように、特定の期間・場所で一時的に販売を行う場合、一部の州では通常のSeller’s Permitとは別に「Temporary Seller’s Permit(臨時販売許可証)」の制度を設けています。
これは、短期間の販売機会に対応するための簡易的な許可制度であり、イベント出展者や移動販売業者にとっては非常に実務的な選択肢です。
(1)Temporary Permit の特徴
- 特定のイベントや期間に限定して有効
例:2025年7月1日~7月4日の○○展示会のみ有効 - 州によってはイベント名・開催地・期間を申請時に記入
- オンライン申請が可能な州が多く、取得のハードルは低い
- 一定期間を超える場合は通常のSeller’s Permitが必要になることも
(2)Temporary Permit を導入している主な州(例)
| 州 | 運用の有無 | 特徴 |
| カリフォルニア州 | あり | CDTFAにてオンライン申請可能(イベントごとに登録必要) |
| テキサス州 | あり | Comptrollerにてイベントごとに簡易登録フォームあり |
| ニューヨーク州 | なし | Certificate of Authority(通常Permit)の取得が必要。 臨時枠なし |
もっとも、「あり」の州でも、Permitの有効期間や登録条件は異なるため、事前の確認が重要です。
(3)Temporary Permitがない州では?
Temporary Permit制度が存在しない州では、通常のSeller’s Permitを取得する必要があります。
この場合、イベント終了後にPermitを解約(cancel)または非アクティブ化する手続きが必要になるため、「出展前」と「出展後」の両方で対応が求められる点に注意が必要です。
(4)登録の具体的な流れ(カリフォルニア州の例)
- CDTFAのオンラインポータルにアクセス
- 「Temporary Seller’s Permit」オプションを選択
- イベント名・会場住所・販売期間・商品情報を入力
- 即時発行または数営業日以内にPermit取得
このように、比較的手軽に取得できる一方で、取得せずに販売を行った場合は罰金・追徴課税の対象になるため、事前登録は必須です。
短期販売であっても、「州に対する登録なしには合法的に販売できない」というのが米国の基本ルールです。
4.主催者の関与と出展者の責任

展示会やフェスティバルなどのイベントに出展する際、多くの方が「主催者が手続きしてくれるのでは?」と考えがちです。
しかし、Sales Taxの登録や申告は基本的に出展者自身の責任であり、主催者がその義務を代行することはほとんどありません。
(1)主催者はSales Tax Permitの確認を求めるケースが多い
近年、多くの州では主催者に対して、以下のような義務や期待が課されるようになっています。
- 出展者にSales Tax Permitの取得を求めること
- Permit番号を収集し、州税務当局に提出すること(例:カリフォルニア州、テキサス州)
- 出展者リストを保存・報告する義務があるイベントもある
そのため、イベント主催者から次のような対応を求められることがあります。
- 出展申し込み時にPermit番号を提出する
- 未提出の場合は販売不可、または展示のみ許可される
- 販売品や営業形態によって追加許可(例:保健所許可)を求められる
(2)最終的な法的責任は出展者にある
主催者がPermit取得の案内をしてくれることはありますが、あくまで補助的なものであり、登録・申告・納税という税務上の義務は出展者本人にあります。
- 主催者が確認してくれなかった=免責になるわけではない
- 他の出展者が登録していない=違反行為をしてよい理由にはならない
- 特に無登録で税を徴収せずに販売を行った場合、後日遡って徴収義務や罰金が課される可能性がある
(3)出展者としての対応まとめ
| 項目 | 対応の主体 | 備考 |
| Sales Tax Permitの取得 | 出展者自身 | Temporaryまたは通常Permitが必要 |
| Permit番号の提出 | 出展者(主催者が求める場合) | 提出しないと出展不可になることも |
| 税額の徴収・申告・納付 | 出展者自身 | 会計記録の保存も重要 |
| 事後のPermit解約(必要な場合) | 出展者自身 | Temporary Permitであれば期間終了後に自動終了する場合もあり |
展示会やポップアップは短期とはいえ「れっきとした事業活動」であり、その場で生じる売上には税務上の責任が伴います。
5.食品販売や雑貨販売など、品目別の注意点

展示会やポップアップストアで販売される商品は多岐にわたりますが、販売する品目によってSales Taxの課税対象かどうかが異なる点には特に注意が必要です。
また、食品や飲料を扱う場合には、Sales Taxのほかに保健所の許可が必要になる場合もあります。
(1)食品の販売は州によって課税の扱いが異なる
多くの州では、「調理済みの食品」や「その場で消費される飲料」はSales Taxの課税対象とされています。
一方で、スーパーマーケットで販売されるような生鮮食品や未加工品は非課税扱いとされることもあります。
| 商品 | 一般的な課税扱い(※州により異なる) |
| ペットボトル飲料 | 課税対象(ほぼすべての州) |
| 焼き菓子・弁当などの調理済み食品 | 課税対象(その場で食べる場合は特に) |
| 生野菜や乾物のパッケージ商品 | 非課税扱いの州も多い |
同じ食品でも、販売形態(その場で消費かどうか)や包装状態によって課税・非課税が分かれるため、事前の確認が必須です。
(2)雑貨・クラフト作品・アパレルは原則課税対象
手作りアクセサリー、Tシャツ、ポスター、陶器など、ほとんどの物品販売はSales Taxの課税対象です。
州によっては、一定額以下のアパレル商品に対して免税措置がある場合もあります(例:ニューヨーク州では$110以下の衣類は非課税)。
(3)保健許可(Temporary Food Permit)にも注意
食品を調理・提供する場合、Sales Taxとは別に現地の保健当局から「Temporary Food Service Permit」などの食品営業許可が必要になることがあります。
- 主催者が一括して案内・取得をサポートしてくれることもあるが、基本は出展者が自ら申請
- イベント開催地の市・郡・州の保健局に問い合わせる必要がある
- 無許可での提供は罰則・営業停止につながる場合あり
(4)出展前に確認しておくべきポイント
| チェック項目 | 内容 |
| 販売品が課税対象か? | 州の課税品目リストで確認 |
| その場で食べられる商品か? | 食品課税の判断に影響 |
| 保健所の許可が必要か? | 市または郡の保健局へ確認 |
| 特例や免税措置があるか? | 州独自の免除ルールがあることも |
販売品によってSales Taxの取扱いや必要な許認可が変わるため、商品別に「どこに確認すべきか」の体制を整えることが重要です。
6.州別の事例紹介

展示会やポップアップでの販売に関するSales Taxの対応は、州ごとに制度や運用方法が大きく異なります。
ここでは、出展者が特に注意すべき主要州の対応を比較しながら紹介します。
(1)州別比較表(2025年時点の情報)
| 州名 | Temporary Seller’s Permit | 登録窓口 | 主催者の報告義務 | 備考 |
| カリフォルニア州 | あり | CDTFA | あり (出展者リスト提出義務) |
出展者ごとの登録が必要。 Permitはイベント単位で取得可能。 |
| テキサス州 | あり | Comptroller | あり | 簡易登録可。 展示会販売でも即ネクサスとみなされる。 |
| ニューヨーク州 | なし (通常Permitのみ) |
NYS Department of Taxation and Finance | 特段の義務なし | Temporary制度なし。 出展前に通常のCertificate of Authorityが必要。 |
| フロリダ州 | あり | Department of Revenue | 任意 (イベントにより異なる) |
登録フォームにイベント詳細の記入が必要。 食べ物販売には追加許可が必要。 |
| イリノイ州 | あり (イベント用登録制度) |
Illinois Department of Revenue | 条件付きで報告義務あり | 州がイベント単位の登録・管理をしている。 比較的取得しやすい。 |
(2)州の情報は常にアップデートされている
Temporary Permitの有無や申請プロセス、主催者への報告義務などは、年度やイベント種別によって変更される可能性があるため、毎回の出展前に最新の情報を確認することが重要です。
州税務局のWebサイトでは、出展者向けのガイドラインやFAQが公開されていることが多いため、実務的にはWeb調査+主催者への確認が基本対応となります。
(3)イベント主催者によるサポートの有無も要確認
大規模イベントや行政が関与する展示会では、主催者が出展者向けに登録リンクを一括案内してくれるケースもありますが、個別の申請や税務対応を主催者が代行することはまずありません。
また、主催者の案内がなかったとしても、州の登録義務が免除されるわけではない点にも注意が必要です。
展示会での販売においては、「出展=その州にネクサスが発生する」という前提のもと、各州で適切にPermitを取得・管理することが求められます。
7.申告と納税

展示会やポップアップイベントで商品を販売した後は、Sales Taxの申告と納税が必要になります。これは一時的な販売であっても例外ではなく、Permit(販売許可)を取得した時点で、その州に対する納税義務が発生します。
(1)申告のタイミングと方法
申告の頻度は州によって異なりますが、Temporary Seller’s Permitを取得した場合は、通常イベント終了後に一度だけ申告する形式が多く採用されています。
一方、通常のSeller’s Permitを取得して販売を行った場合は、州から指定された頻度(多くは月次・四半期ごと)で申告が必要になります。
申告方法は、多くの州で以下の流れになります。
- 州税務局のオンラインポータルにログイン
- 期間中の売上額、課税売上、非課税売上を入力
- 州・市・郡ごとの税率を反映させた税額を確認
- 納税方法を選択(銀行口座からの引き落とし等)
- 電子申告・電子納税の完了(Confirmation保存推奨)
(2)ゼロ申告の必要性
たとえイベント当日に売上が一切なかった場合でも、「売上ゼロ」での申告(いわゆるゼロ申告)が必要な州がほとんどです。
ゼロ申告を怠ると、未申告として自動的に延滞扱いとなり、以下のような罰則が科されるリスクがあります。
- 遅延罰金(Late Filing Penalty)
- 利息の加算(Interest)
- 今後のPermit発行停止・審査強化
(3)Permitの解約または休止の対応
Temporary Seller’s Permitは、イベント終了後に自動的に失効する仕組みになっている州が多いですが、通常のPermitを取得していた場合には、不要となった時点で「閉鎖(Close Account)」または「非アクティブ化(Inactivate)」の手続きが必要です。
- 手続きを怠ると、次回以降も申告義務が継続されてしまう
- 何も報告しないと、「無申告」と見なされる可能性もある
(4)正確な記録の保存も重要
売上記録、レシート、集計表、納税記録は最低でも数年間(州により3~7年)保存する必要あります。
また、州税務署からの問い合わせやAudit(税務調査)に備えて、販売日・金額・税率の記録を明確に保管しておくことが推奨されます。
このように、短期イベントであっても、出展後のSales Tax申告・納税手続きは法的義務であり、怠ると将来的なリスクにつながります。
8.よくある質問(FAQ)

ここでは、展示会やポップアップイベントでの販売に関して、出展者からよく寄せられるSales Taxに関する質問とその回答をまとめました。
Q1.1日のみの出展でもSales Tax Permitの取得は必要ですか?
はい、必要です。
販売を行う州では、1日限りのイベントであっても「物理的ネクサス」が発生する可能性があるため、Sales Tax Permit(Temporaryまたは通常)を取得する必要があります。
登録せずに販売を行うと、後日罰金や追徴課税を受けるリスクがあります。
Q2.販売しなかった場合も申告は必要ですか?
はい、必要な場合があります。
販売がゼロだったとしても、Sales Tax Permitを取得した以上、ゼロ申告を義務付けている州が多数あります。
申告を怠ると、「未申告」として自動的に延滞ペナルティが課される可能性があります。
Q3.複数の州で出展する場合、Sales Tax Permitは各州で必要ですか?
基本的には各州での取得が必要です。
Sales Taxは州ごとに制度が異なるため、出展する州ごとにPermitの取得と申告が必要となるのが原則です。
Temporary Permitがある州もあれば、通常のPermitしか発行していない州もあるため、州ごとのルールを事前に確認してください。
Q4.主催者からPermit取得の案内がなかった場合は?
自分で確認・対応する必要があります。
主催者が案内してくれることもありますが、案内がなかったとしても出展者自身に法的責任があります。
州税務局のウェブサイトなどで自ら確認し、必要な手続きを行いましょう。
Q5.英語での申請や税務対応が不安です。どうすればよいですか?
専門家への相談をおすすめします。
州税務局の書類や申請フォームはすべて英語で、税務用語も多く含まれています。
不備があると許可が下りなかったり、申告エラーにつながることもあるため、日系企業向けに対応している専門家や会計事務所へのご相談をおすすめします。
9.まとめ
展示会やポップアップイベントでの販売は、比較的手軽に始められるビジネス機会として人気がありますが、米国のSales Tax制度においては「短期だから対応不要」という考えは通用しません。
たとえ1日だけの出展であっても、その州で商品を販売すれば、Sales Taxの登録・徴収・申告といった一連の義務が発生する可能性があるため、慎重な準備が求められます。
今回のコラムでは以下のポイントを解説しました。
- 展示会出展でも物理的ネクサスが発生しうる
- 州によってはTemporary Seller’s Permitが用意されている
- 主催者にも報告義務がある州があるが、登録・申告は出展者自身の責任
- 食品販売など一部の商品にはSales Tax以外の許可も必要
- 出展後は申告・納税を確実に行い、場合によってはPermitの解約も忘れずに
Sales Taxへの対応は、米国で販売を行う上での法的な基本インフラのようなものです。
イベント出展を「一時的な販売」として軽く考えるのではなく、その都度適切な登録と納税を行うことで、長期的な信頼とビジネス継続につながります。
次回のコラムでは、EC(Eコマース)販売を行う場合のSales Tax対応について詳しく解説します。
物理的に出展しなくても、売上高や取引件数によってSales Tax義務が発生する「経済的ネクサス」の仕組みや、マルチステート対応の実務を取り上げていきます。
Univis Americaでは、Sales Taxの登録やTemporary Permitの取得サポート、イベント後の申告対応まで、日系企業・個人事業者様向けにフルサポートを行っています。
展示会や短期イベント出展をご検討中の方は、どうぞお気軽にご相談ください。
監修者
小林 賢介
早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。