米国Sales Taxの基本:しくみ・登録・申告の全体像を解説
1.はじめに
米国で物販ビジネスを行う際に避けて通れないのが「Sales Tax(売上税)」への対応です。
日本では消費税が全国一律に課されますが、米国ではSales Taxは各州が独自に課す地方税であり、さらに郡や市単位で加算されることもあるため、地域によって税率やルールが大きく異なります。
また、このSales Taxは常設の店舗販売に限らず、展示会やポップアップストア、ECサイトやAmazonを通じた販売など、販売形態を問わず関係してきます。
短期間の販売であっても「税務的には販売拠点がその州に存在した」とみなされ、登録義務や申告義務が生じるケースも少なくありません。
にもかかわらず、特に日本から進出される企業にとっては、Sales Taxの仕組みが日本の消費税制度と異なっていることから、「登録しなくても大丈夫だろう」と誤解されたまま販売が行われてしまうこともあります。
これは後々、罰則や税務調査のリスクを生むことにもなりかねません。
本コラムシリーズでは、まずSales Taxの基本的な考え方と制度の全体像を理解したうえで、次回以降、販売形態ごとに必要な対応について詳しく解説していきます。
第1回となる今回は、Sales Taxのしくみ、登録の要否、申告義務など、すべての販売者に共通する基礎知識を整理します。
2.Sales Taxとは?

Sales Tax(売上税)とは、物品の販売時に消費者から徴収し、事業者が州政府などに納付する間接税です。
日本の消費税に近い概念ですが、大きく異なる点は、連邦(国)レベルではなく、州や市などの地方政府が課税主体であるということです。
州ごとにSales Taxの有無や税率、対象品目が異なり、さらに郡(County)や市(City)ごとに追加で税率が上乗せされる場合もあるため、同じ商品でも販売場所によって適用税率が変わるという特徴があります。
また、Sales Taxはすべての商品に一律で課されるわけではなく、以下のように州によって課税対象が異なります。
- 課税対象となるもの(例)
- アパレル、雑貨、電化製品などの物品販売
- 一部のデジタル商品(ダウンロード販売など)
- 短期的な宿泊(ホテル税含む)
- 非課税または免税扱いされるもの(例)
- 食料品、処方薬(州により免税)
- 教育用書籍や特定の学用品
- B2B取引でResale Certificateが発行されている場合
また、サービス(コンサルティング、設計、清掃など)については、州によって課税の有無が分かれるため、物販よりも判断が難しいケースがあります。
このように、Sales Taxは「州によって全く制度が違う」ため、販売する場所と内容に応じて個別に調査・対応することが求められます。
3.税率の構成

米国のSales Taxは、複数のレベルの税率が合算されて課税されるのが特徴です。
具体的には、以下のような構成になっています。
- 州税(State Tax):全米のほとんどの州が導入しており、ベースとなる税率です(例:ニューヨーク州4.00%、カリフォルニア州7.25%)。
- 郡税(County Tax):州内の各郡が加算するもので、郡によって異なります。
- 市税(City or Local Tax):さらに細かい市町村単位で加算される税です。
このように、最終的に消費者に課されるSales Tax率は、州+郡+市の合算になります。
例:カリフォルニア州ロサンゼルス市の場合
- 州税(CA):7.25%
- 郡税(ロサンゼルス郡):0.50%
- 市税(ロサンゼルス市):2.00%
→合計Sales Tax率:9.75%
一方で、オレゴン州やモンタナ州など、一部の州では州レベルでSales Taxを課していないところもあります。
しかし、こうした「無税州」であっても、他州で販売すればその州のSales Tax登録・納付義務が発生する場合があるため注意が必要です。
また、オンライン販売やモバイルPOSなど、販売場所が一時的または可変な場合、税率は「商品の引き渡し場所(通常は購入者の住所)」に基づいて決まるのが一般的です。
このように、販売場所によって課税率が大きく異なるため、販売前に税率を調べ、適切に徴収できる体制を整えておくことが不可欠です。
4.登録:Seller’s Permit(Sales Tax Permit)

米国で商品を販売する場合、たとえ短期間・少額の売上であっても、販売先の州における「Sales Tax Permit(売上税許可証)」の取得が原則として必要です。
この許可証がなければ、合法的にSales Taxを徴収・納税することができず、未登録での販売は罰則の対象となる可能性があります。
(1)呼び方は州によって異なる
この登録制度は州税務局が管轄しており、名称も州によって異なりますが、いずれも意味するところは同じです。
| 州 | 名称 | 管轄機関 |
| カリフォルニア州 | Seller’s Permit | CDTFA(州税・料金管理局) |
| ニューヨーク州 | Certificate of Authority | NYS Department of Taxation and Finance |
| テキサス州 | Sales and Use Tax Permit | Comptroller of Public Accounts |
(2)一時的な販売でも登録が必要
展示会、マーケット、ポップアップストアなど、短期間の出店であっても、州によっては「Temporary Seller’s Permit」が発行されるケースもあります。
特定のイベントや販売期間に限定されるため、事前に期間・場所を指定して申請します。
(3)登録の基本的な流れ(一般的な州の場合)
- 州税務局のウェブサイトからオンライン申請
- 申請に必要な情報の入力
-会社名/事業者名
-EIN(連邦雇用者番号)またはSSN
-事業内容、販売商品、販売形態(対面/オンラインなど)
-販売場所や期間(Temporary Permitの場合) - 即時または数営業日内にPermitが発行される
(4)複数州に販売する場合の注意点
販売先が1州にとどまらず、複数州で販売する場合(例:ECサイト、展示会ツアーなど)、ネクサスが生じた州ごとに個別にPermitを取得する必要があります。
特にオンライン販売の場合、物理的な拠点がなくても「経済的ネクサス」により登録義務が発生することがあります(これについては次回以降で詳しく解説します)。
Sales Tax Permitの取得は、販売前に済ませておくべき最低限の法的義務です。
未登録のまま販売を開始すると、後日高額なペナルティを課されるリスクもあるため、販売前の早い段階での対応が肝心です。
5.ネクサス(Nexus)とは

Sales Taxの登録が必要になるかどうかは、販売者がその州に「ネクサス(Nexus)」を持っているかどうかによって判断されます。
ネクサスとは、ある州に対して「課税上のつながり」がある状態を意味し、これがあると、その州でSales Taxの徴収・納税義務が発生します。
(1)ネクサスには大きく2種類ある
| 種類 | 内容 | 例 |
| 物理的ネクサス (Physical Nexus) |
販売者が州内に何らかの実体(場所・人)を持っている場合 | 倉庫、店舗、オフィス、営業スタッフの常駐、展示会出展など |
| 経済的ネクサス (Economic Nexus) |
州内で一定以上の売上または取引件数がある場合 | 年間売上が$100,000超、または200件超(州により異なる) |
(2)物理的ネクサスの具体例
- 州内の展示会やマーケットに出展した
- FBA(Fulfillment by Amazon)を通じて商品が州内倉庫に保管されている
- 出張販売で一時的にその州で販売を行った
このようなケースでも、「その州で事業を行っている」とみなされ、Sales Tax登録義務が発生します。
(3)経済的ネクサス:Wayfair判決以降の大きな転換点
2018年のSouth Dakota v. Wayfair, Inc.という最高裁判決により、物理的な拠点がなくても、売上高や取引件数が一定基準を超えればネクサスが認定されるというルールが確立されました。
例)
- サウスダコタ州:年間売上$100,000超または200取引超
- テキサス州:年間売上$500,000超
- カリフォルニア州:年間売上$500,000超
このルールの影響により、オンライン販売者でもSales Tax登録義務が急増しています。
(4)要注意:知らなかったでは済まされない
ネクサスは「発生してから〇日以内に登録」という明確な期限がある州もあり、知らずに無登録で販売を続けていると、過去に遡ってペナルティや利息を課されるリスクがあります。
したがって、販売前または売上が伸びてきた段階で、自社がどの州にネクサスを持っているかを早めに確認することが非常に重要です。
6.申告と納税

Sales Tax Permitを取得し、販売を開始したあとは、定期的にSales Taxの申告と納税を行う義務があります。
これは売上の有無にかかわらず発生し、売上ゼロでも「ゼロ申告」が必要となる州が多いため、放置するとペナルティが発生します。
(1)申告の頻度
Sales Taxの申告頻度は、州が事業者の売上規模などに応じて指定します。
一般的な区分は以下の通りです。
| 申告頻度 | 適用されやすい事業者 | 備考 |
| 月次(Monthly) | 高売上の事業者 | 最も頻度が高いが、納税もこまめに必要 |
| 四半期ごと(Quarterly) | 中規模事業者 | 初期登録時によく指定される |
| 年次(Annually) | 売上が小規模な事業者 | ゼロ申告でも期限遵守が必要 |
州からの通知に従い、e-filing(電子申告)で州税務局のサイトから申告・納税するのが一般的です。
(2)申告内容の概要
申告時には通常、以下のような情報を報告します。
- 対象期間中の総売上高
- 課税対象売上と非課税売上の内訳
- 州ごとの税率に基づいたSales Taxの合計
- 納付すべき税額
オンライン上で自動計算される州も多く、事前に売上データやPOS記録を整備しておくことが重要です。
(3)ゼロ申告の重要性
販売がなかった月や四半期であっても、「売上なし」の申告(ゼロ申告)をしないと延滞扱いになる場合があります。
例)「売上がなかったから申告しなかった」→州が無申告と認定→罰金通知が送付される
(4)納付方法と注意点
- 納付は銀行口座からの引き落としやACH送金などが主流
- 一部州ではクレジットカード納付も可(ただし手数料が発生)
- 納付期限を過ぎると利息・延滞金が自動で加算される
また、Sales Taxを預り金と捉え、事業資金と混同しないよう注意が必要です。
徴収した税金はあくまで「一時的に預かっている州の資金」であるという認識が求められます。
Sales Taxの申告と納税は、登録と同じくらい重要な義務です。
売上が少額でも、申告を怠れば不要なペナルティに直結しますので、きちんとした記録とスケジュール管理が欠かせません。
7.違反した場合のペナルティ

Sales Taxに関する登録・申告・納税の義務を怠った場合、各州は厳しいペナルティを科す権限を持っており、悪質なケースでは重加算税や刑事罰に発展する可能性もあります。
(1)未登録での販売
Sales Tax Permitを取得せずに商品を販売した場合、その行為は州において「無許可営業(Unauthorized Sales)」とみなされ、以下のような処分を受けるリスクがあります。
- 遡ってのSales Tax徴収命令(バックタックス)
- 延滞利息および罰金
- 州によっては一時的な営業停止命令やライセンス停止
- 重大な違反として刑事責任が問われる場合も
(2)申告遅延・納税遅延
申告や納税の期限を過ぎた場合、以下のようなペナルティが自動的に加算されます。
- 延滞罰金(Late Filing Penalty):税額の一定割合(例:5~10%)
- 延滞利息(Interest):州が定める年率(通常は5~15%程度)で日割計算
- 継続的な遅延に対する追加罰金
仮に売上がゼロであっても、ゼロ申告をしない限りは「無申告」として同様のペナルティが科される点にも注意が必要です。
(3)税務調査のリスク
州によっては、Sales Taxに関する税務調査(Audit)が定期的に行われています。
もし無登録や未申告が発覚すると、最大で過去7年分の遡及課税や帳簿の詳細な調査を受ける可能性があります。
特にEC販売や展示会販売などで複数の州にまたがって無申告の状態がある場合、調査の対象範囲が一気に広がるリスクが高まります。
(4)「知らなかった」は通用しない
米国のSales Tax制度は複雑であるとはいえ、各州は「販売を行っている以上、義務を把握しているべきである」という前提で対応します。
したがって、「知らなかった」「海外からだから仕方がない」といった理由は免責になりません。
Sales Taxの義務を怠った場合のダメージは、事業者の規模にかかわらず大きなリスクになります。
対応が遅れる前に、早めに登録・記録・申告体制を整えておくことが、安定的な米国ビジネス展開の鍵です。
8.まとめ
米国のSales Taxは、日本のような全国一律の消費税とは異なり、州・郡・市が独自に課税する地方税制度です。
そのため、税率や課税対象、登録・申告ルールは州ごとに大きく異なります。
本記事では、Sales Taxの基本的な仕組みから、登録(Seller’s Permit)、ネクサスの概念、申告・納税の流れ、そして違反時のペナルティまで、全体像を解説しました。
これらは、展示会や短期イベントで販売する方だけでなく、オンラインショップやAmazonなどで広範に販売される方すべてに共通する知識です。
特に次のような方は、Sales Taxへの対応が急務です。
- 展示会やポップアップで州をまたいで出展を予定している
- ECサイトで全米に商品を販売している
- Amazon FBAを利用しているが、Sales Tax登録の有無を把握していない
これから米国での販売を始める方はもちろん、すでに販売を始めているがSales Tax対応に不安がある方は、まずは「自社がどの州にネクサスを持っているか」を確認し、必要な州に登録することが第一歩です。
次回以降のコラムでは、
―展示会・ポップアップでの販売対応
―EC販売における経済的ネクサスとマルチステート登録
―Amazon販売におけるMarketplace Facilitator制度
など、販売形態ごとの具体的なSales Tax対応について、さらに詳しく解説していきます。
最後に、Univis AmericaではSales Tax登録・申告の支援はもちろん、ネクサス分析や複数州対応のストラテジー設計など、日本企業様の米国進出・販売体制整備を幅広くサポートしております。
ご不明点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
監修者
小林 賢介
早稲田大学政治経済学部を卒業後、 有限責任監査法人トーマツのグローバルサービスグループ部門に入所。 2015年8月よりDeloitte NYに駐在。 その後、ニューヨークにて UNIVIS AMERICA LLC(Univis US)を立ち上げ、同所長に就任。