アメリカ不動産投資に関する税務

Updated: Nov 21, 2019

経済成長が続くアメリカでは、2008年のサブプライム問題で一時期大きく不動産相場が下落したものの、長期的な視点では不動産相場は上昇を続けており、米国不動産は今日でも日本人投資家の大きな投資先のひとつとなっています。



そこで、本記事では税務的な観点から、なぜ日本人投資家が米国不動産を好むのか、米国不動産投資におけるタックスメリット及び米国不動産投資に関わる米国税制について解説します。


目次

Ⅰ. 米国不動産投資のタックスメリットとは

 ~減価償却費とは?~

 1.減価償却割合が高いことによるタックスメリット

   ・建物の評価割合の高い米国不動産!

 2.加速度償却を利用したメリット

   ・日米の耐用年数の考え方の違い


Ⅱ. 米国不動産の投資形態

 1. 個人名義での不動産投資

   1) 加速度償却の適用

   2) キャピタルゲインに対する税制優遇

   3) 事務手続きの簡便性

 2.法人名義での不動産投資

   1)訴訟時のリスクの軽減

   2)インカムゲイン(*)に対する低い税率

   ~C Corporation と LLC (Limited Liability Company)~


Ⅲ. アメリカでの税務申告について

 1.米国税制の概要

 2.不動産収入にかかる税額の算定方法

 3.米国非居住者に対する特例

4.確定申告について



Ⅰ. 米国不動産投資のタックスメリットとは


日本では一般的に、バブル崩壊以降、不動産の価値は時が経つにつれて下落すると考られています。一方アメリカでは、不動産は長期で保有すればその価値は上昇し、購入価格よりも高い価格で売れると考えられています。


このように購入価格よりも売却価格のほうが高く、その差額から得られる利益のことをキャピタルゲイン(売却益)と呼びます。このキャピタルゲインを目的として米国不動産を購入される方もたくさんいます。しかし、米国不動産投資の最大のメリットは、キャピタルゲインよりも、むしろ以下の2つのタックスメリットにあると言えます。

~減価償却とは?~

上記2つのタックスメリットについて理解するためには、まず「減価償却」についてよく理解する必要があります。


給与や家賃のような支出は、通常サービスを受けた期間と費用を支払う期間が一致するため、支払いを行ったタイミングで支払金額を一括で費用計上することができます。一方、建物や機械のような固定資産は、購入してから長期に渡る使用が想定されるため、税務上は当該固定資産の購入価格を一括で費用計上することは認められず、それぞれの固定資産の耐用年数に応じて費用を期間按分することが求められています。

このように、取得価額を一定期間に渡り費用化(償却)する仕組みを「減価償却」、減価償却により認識された費用を「減価償却費」と呼びます。


※土地は、建物や機械のような時の経過又は使用に応じて劣化していく資産とは異なり、半永久的に使い続けることができる資産と見なされています。従い、土地に関しては例外的に、減価償却費を認識することは認められていません。


1.減価償却割合が高いことによるタックスメリット


上記で述べた減価償却費は税務上の経費となるため、減価償却費を認識することで利益が減り、その分、税額を抑えることができます。

不動産を購入した場合、その購入価額は土地と建物に一定の方法により按分されます。ただし上述の通り、建物は減価償却費を認識できる一方、土地は減価償却費を認識することができません。従い、購入価額が土地と建物にどのように按分されるかにより、減価償却費をいくら認識できるか(税負担をどれだけ減らせるか)が異なってきます。


建物の評価割合の高い米国不動産!

つまり、減価償却費計上による税負担の減少割合を左右する重要なポイントは、土地と建物がそれぞれいくらで評価されるのか、ということです。評価方法はそれぞれの国又は地域により異なりますが、この実務が日本とアメリカでは大きく異なっています。


一般に、日本では土地と建物の割合が8:2となるのに対し、アメリカでは土地と建物の割合が2:8になると言われています。


例えば、1億円の不動産を購入したとすると、日本では約2割の2000万円分しか減価償却費を認識できないのに対し、アメリカでは約8割の8000万円もの減価償却費を認識できるということになります。つまり、税率を30%と仮定すると、日本とアメリカでは1,800万円も税金負担額が異なってくるのです。


このように、同じ価格で物件を購入したとしても日本よりも多額に減価償却費を計上でき、結果として多くのキャッシュを手元に残すことができる点が、米国不動産投資の大きなメリットのひとつです。



2.加速度償却を利用したメリット

米国不動産投資の税務上メリットの2つ目は、加速度償却を有効利用しやすい点です。

一つ目のメリットである減価償却割合が高い点については、居住地にかかわらず誰もが得られるメリットです。一方、こちらの加速度償却によるメリットは、日本の税制をうまく活用したメリットですので、日本の居住者がアメリカで不動産投資を行った場合にのみ適用可能となります。


日米の耐用年数の考え方の違い

アメリカでは中古物件の市場が日本よりもずっと盛んで、建物の状態が良ければ、築年数に関係なく高額での取引が頻繁に行われています。また、日本に比べて地震などの自然災害が少ないため、築50年を超える物件も多々存在し、リノベーションなどによりきれいに保たれている場合が多くあります。


このような不動産を取り巻く環境の違いから、日本とアメリカでは耐用年数について、以下のような違いがあります。


日本では税制上、経過年数が法定耐用年数を超えた物件を新たに購入した際の償却期間は「法定耐用年数×0.2 (小数点切り下げ) 」年になります。


例えば、築25年の木造物件(法定耐用年数22年を経過)を購入した場合、償却期間は「22×0.2=4 (小数点切り下げ) 」年となり、法定耐用年数よりも遥かに短い期間で償却できることになります。これを「加速度償却」と呼びます。


この「加速度償却」による効果を具体的に見てみましょう。

税率が30%で1億円の建物を購入したと仮定し、(A) 4年で償却できる場合と(B) 20年で償却する場合の購入後4年間の節税効果の差は以下となります。

つまり、最終的に計上できる減価償却費は同じでも、4年経過時点で費用計上できる減価償却費に8000万円の差が生じ、結果としてその時点までに支払う税金の金額を2400万円抑えることができるため、手元キャッシュに2400万円もの差が出るのです。このように早期に多くのキャッシュを手元に残せることは、次の投資機会にすぐに取り組めるということであり、投資家の方にとって大きなメリットとなります。



Ⅱ. 米国不動産の投資形態


米国不動産投資を行うにあたっては、投資物件の選定や投資資金の調達方法など、考慮すべき要素が多々あります。その中でも「投資形態の決定」はその後の税務に大きく影響を与えるため、不動産投資を行う上で特に重要となります。


米国で不動産投資を行う場合、もちろん個人の名義で行うこともできますが、意外と多くの方が法人を設立し法人名義で不動産を所有しています。


そこで本章では、不動産を個人名義で保有する場合と法人名義で保有する場合の違い、および法人設立に際する代表的な法人格の種類についてご説明いたします。 


1.個人名義での不動産投資


個人名義で不動産投資を行った場合のメリットは以下の3点です。

1)加速度償却の適用

最大のメリットは、前章で述べた加速度償却を適用できることです。

これは、日本で不動産所得を申告する個人、つまり日本居住者のみが利用できる制度です。


米国で法人を設立した場合、その法人は日本では外国法人として扱われます。日本国外で活動している外国法人には、日本での納税および申告義務はありません。そのため、米国法人に日本の税制は適用されず、当該法人が保有する不動産に日本の税制を利用した加速度償却を適用することはできません。従い、加速度償却を利用したメリットを得るためには個人名義での投資を行うことが必要になります。

2) キャピタルゲインに対する税制優遇

米国税制上、個人にかかる所得税に関しては、保有期間が1年以上の不動産を売却する際のキャピタルゲイン(売買差益)に対する税制優遇があります。

このキャピタルゲインに対しては、最大税率20%と通常の所得税率より低い税率が適用されます(連邦税のみ)。


一方、法人に対しては上述の通り一律21%の法人税が課されます。従い、インカムゲイン目的ではなく、比較的短期間でキャピタルゲインを得ることを目的とする場合、法人名義で投資を行うより個人名義で投資したほうがキャピタルゲインに対する税率を低く抑えることが可能となります。


3) 事務手続きの簡便性

法人名義で投資を行うにはアメリカで法人を新たに設立する必要があります。

また、法人設立後はその維持のため、様々な事務手続きやコストが生じます。


一方、個人で不動産投資を行う場合には、法人名義で投資を行う場合に比べて必要な手続きは少なくなります。



2.法人名義での不動産投資


法人名義で不動産投資を行った場合のメリットは以下の2点です。


1)訴訟時のリスクの軽減

最大のメリットは、訴訟リスクを軽減できることです。

訴訟大国であるアメリカでは、テナントとの些細なトラブルから裁判に発展し、多額の賠償金を請求される事態に至るケースがしばしばあります。


個人で不動産を保有している場合にもし敗訴し賠償額が保有している不動産の物件価格を超えてしまうと、個人の財産も含めて賠償責任を負うことになります。

一方、法人名義で保有している場合は法人の資産と個人の財産が切り離されているため、賠償責任は法人への出資額に限定され、個人の財産にまで賠償責任が問われることはありません。


このように出資した範囲を上限としてのみ責任を負うことを「有限責任」と呼びます。反対に、自身の出資した範囲を超えて個人の財産まで責任を負うことを「無限責任」と呼びます。投資を行う上でリスク管理は非常に重要であるため、この有限責任というオプションを取れることが法人名義の最大のメリットとなります。



2)インカムゲイン(*)に対する低い税率

米国では、個人の所得税率は所得水準に応じて10~37%の累進税率が適用されるのに対し、法人に対しては課税所得金額にかかわらず一律21%が適用されます(連邦税のみ)。

米国に不動産投資をされるような投資家は高所得水準の方が多いのが実情ですので、法人で不動産を保有する場合のインカムゲインに対する税率は、個人名義での税率より低くなるケースが多くなります。


(*)インカムゲインとは株式や不動産などの資産を保有中に得られる収益のことです。不動産投資においては、賃貸による家賃収入から各種経費を控除した金額(不動産所得)がインカムゲインに該当します。



~ C CorporationとLLC (Limited Liability Company) ~

不動産投資を行う際に用いられる代表的な法人格はC CorporationとLLCです。


上述の通り法人では個人の財産と法人の資産が切り離されているため、両者ともに「有限責任」となります。一方、課税面での扱いは両者で異なります。


C Corporationは日本の株式会社に類似し、法人ベースの収益に対して法人税が発生します。対してLLCは、「パススルー課税」という特徴的な課税方法が採用されます。

パススルー課税は、法人の得た利益に対し、直接当該の法人には課税されず、その利益の配分を受けた出資者、構成員等に課税される制度です。これは、税金を法人段階とその利益の配分を受けた個人段階との2段階で徴収する「二重課税」を避けるために定められた制度です。従い、LLCで不動産投資を行う場合、法律面では法人と同様の扱いを受け、課税面では個人の場合と同様の扱いを受けることになります


各投資形態のメリットを整理すると以下のようになります。












実際に投資形態を判断する際には、リスクの許容度や保有期間、日本での所得総額など様々な要素を考慮したうえで税務上最も効率的な選択を行うことが重要になります。





Ⅲ. アメリカでの税務申告について


実際に米国不動産投資を行い収入を得た場合、米国居住者であるか否かに関わらず全ての米国不動産保有者にはアメリカでの納税義務があります。

米国税制は非常に複雑ですが不動産投資をする上で一定の理解は不可欠ですので、本章で簡単に概要を解説致します。


1)米国税制の概要

アメリカには連邦税(Federal tax)州税(State tax)、また地域によっては市税(City tax)があります。


連邦税

連邦税は米国内国歳入庁(IRS)により徴収されます。米国国内を源泉とする収入を得た場合、個人が得た収入に対しては連邦所得税、法人に対しては連邦法人税が課せられます。


州税

アメリカの州は日本の都道府県と比較して州の権限が非常に強く、州の税法は各州ごとに定められており州ごとに全く異なった内容になります。例えば、テキサス州やフロリダ州は所得税が全くありません。一方シリコンバレーのあるカリフォルニア州では所得税率が13.3%にも上ります。その他、法人税や消費税などの税率や各種控除についても州によって大きく異なります。そのため、各州の税制をある程度理解したうえで、どの州の不動産を保有するか検討することが重要になります。


市税

上記連邦税、州税に加え、世界的に有名なマンハッタンを含むニューヨークシティなどでは市特有の税制が存在します。市税が存在する地域は多くありませんが、不動産を購入する際は仲介業者等に事前に確認しておくことが推奨されます。


2)不動産収入にかかる税額の算定方法

不動産収入を得た場合、投資形態によって個人所得税あるいは法人税を納める必要があります。州の税法は州ごとに大きく異なるため、以下では連邦税に限り解説します。


■個人名義の場合■


不動産の保有時

個人が得る賃料収入にかかる税額を計算するにあたっては、まず管理費や減価償却費等の必要経費を控除して「不動産所得」を算出し、給与所得などと通算して「総所得」を算出します。この総所得に各種控除等の調整を行った「課税所得」に累進税率が適用され、最終的な課税金額が決定します。


不動産売却時

不動産売却時の税務処理は少し複雑になります。

上述の通り、不動産保有時には建物の経年劣化相当分を減価償却費として経費処理しています。従い、不動産の売却損益を計算する際には、購入価額から経費処理した減価償却処理した金額を控除したNet金額と売却金額とを比較する必要があります。この売却金額とNet金額の差額が売却益(=課税所得)となります。


ここが複雑な点ですが、課税所得に対する税率は、①購入価額よりも売却価額が上回った部分(キャピタルゲイン)と②減価償却した部分の2種類に分かれます。保有期間が1年超の不動産を売却した際のキャピタルゲインは、通常より低い優遇税率(最高税率20%)で課税されます。一方減価償却費相当部分は、上述の給与所得等と同様の累進税率により課税されます。


法人の場合は、個人のような長期キャピタルゲインに対する税制優遇はありません。そのため、1年間の全ての不動産収入から経費を控除した法人ベースの利益に対して一律21%の法人税率が適用されます。


3)米国非居住者に対する特例

上記は、一般的な米国居住者および米国法人に対する税制ですが、日本在住者等の米国非居住者については別途いくつかの特例処置があります。


不動産の保有時

賃料収入に対する課税方法には以下の二通りの方法があります。


(A) 源泉徴収課税

特別な申請処理をしない場合はこちらの方法が適用され、賃料を支払う側(又は不動産仲介会社)が総収入の30%分を源泉徴収します。源泉徴収により課税関係が終了し、確定申告の必要はなくなりますが、総収入の30%と非常に高い税負担となります。


(B) 確定申告による課税

上記の源泉徴収による高税負担を防ぐためには米国にて確定申告を行う必要があります。確定申告時に、米国居住者と同様に必要経費を控除した不動産所得に対して納税することを選択する旨の宣誓書を確定申告書類に添付することでこちらの制度の適用が可能になります。

(A)の方法よりも税負担額が少なくなるため、ほとんどの方がこちらの方法を適用しています。


売却時には、原則として売却価額の15%の源泉税が徴収されます。

これはFIRPTAと呼ばれ、米国非居住者が米国不動産を売却した際に確定申告をせず税金を納めないという事を避けるために定められています。


源泉徴収は、住宅の代金を引き渡す際、買い手が購入代金の15%をIRSに支払い、残り85%を売り手に支払うという形式で行われます。つまり、税金の負担は売り手ですが、実際の手続きは買い手(実際には買い手の弁護士)が行うというシステムになっています。


その後確定申告を行うことで、この確定申告で算出された税額と既に源泉徴収されている金額を比較し、源泉徴収金額が足りなければ追加で支払い、源泉徴収金額が多ければ還付を受けられることになります。


4)確定申告の方法

個人か法人およびその他申告主の属性に応じて、以下の該当するFormにその他必要書類を添付・記入し、期限までに申告を行う必要があります。


※1 個人の場合はForm4868/法人の場合はForm7004を申告期日より前に提出することで、期限を最大6か月延長することができます。


※2 会計期間は申告初年度に自身で選択できますが、通常1月~12月末までを会計期間としています。その場合の申告期日は4月15日となります。


なお、確定申告とは別に“納税”が必要となり、また年間の納税金額が1000ドルを超える場合には“予定納税”が必要となります。予定納税についての詳細はこちらのコラムにてご参照ください。



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